第71話 召集
おもむろに立ち上がるミズ・ウルティカ。
座っていた椅子に掛けられていた突撃銃のスリングに左手の人差し指を引っ掻けると、クイっと跳ねあげる。
くるくると宙を舞う突撃銃。
ジャケットに滑り込ませ、抜き放たれた右手には、一振りの銃剣。
手の中で回転させ、刃先を下に向け構えるミズ・ウルティカ。銃剣のヒルトについたリング状の輪に、くるくると回りながら落ちてきた、突撃銃の銃口がするりと滑り込む。
そのままカチッと固定される銃剣。
ミズ・ウルティカは、銃剣が装着された突撃銃をくるっと半回転させ、銃口を斜め前方に向けて構えを取る。
マスター・マスカルは、レザー張りのトランクケースをテーブルの下から取り出す。
いとおしむように、留め金に掛けられた指。
一瞬の溜めの後、カチッと音をたて、留め金が上げられる。
手のひらを一度擦り会わせ、トランクの両端にかけられる手のひら。そのままゆっくりと持ち上げられたケースのふた。
ちらりと見えたケースの中は、真っ赤な革張り。二丁の銃と、無数のバレットが敷き詰められている。
マスター・マスカルも銃を一丁だけ取り出し、やはりゆっくりと前方に掲げるように構える。
マスター・ホルンパージは腕組みをして、右肩だけに、力を込める。
「ふんっ!」
掛け声と共に、右肩のキャノンが前傾してくる。
ガチャンと響きを立てながら、キャノンが前方に向いた状態で固定される。
ちょうど三人のナインマズル達の構えた銃の銃口が、一点で交わるように。
三人が目線を交わし、マスター・ホルンパージが口を開く。
「いにしえの盟約、ガンパウダーの誓いをここに果たされんことを請う。我はナインマズルが一。八位 不動砲(キャッスル)のマスター・ホルンパージなり。ここに集いし三丁のマズルを持って証とする。今こここそが死地なり。銃口を揃えよ。銃口を揃えよ。死地を打ち破らんとナインマズルの銃口が火を吹くであろう。硝煙ののろしを上げよ。」
そこで三人が口を、揃える。
『『『のろしを』』』
その瞬間、俺の黒く染まった瞳には、ナインマズル達の掲げられた銃口から、本物ののろしのようにイドが煙状になって溢れ出す様子が、映る。
溢れたイドが、空中で一つに纏まったかと思うと、九つに別れる。うち三つはこの場にいる三人のナインマズル達の銃に降り注ぐ。四つが彗星のように尾を引き、彼方へと飛び去っていく。
そして、残りの二つが空中に留まると、そのまま虚空へとゆっくりと消え去ってしまった。
「これが、ガンパウダーの誓い……」
と、江奈。
「ええ、ナインマズルに召集をかけました。可及的速やかに皆、駆けつけてくれるでしょう。それまでは、私達で行けるところまで拠点を構築するのがベストでしょうね。」
江奈とミズ・ウルティカはこれからの取るべき動きを相談し始める。
「二つ?」
俺は今見た光景に気を取られ、そんな呟きが口から漏れる。
それがたまたま聞こえたのか、マスター・マスカルがこちらへ、ちらりと視線を向け、しかしすぐに反らす。視線をそらしたまま、静かに答えてくれる。
「一つはマスター・オリーブハイブ。もうひとつは、ナインマズルは三位が長らく空位での。かつての三位は私の友人だった。彼も力ある目を持っていたよ。朽木君、君はよく見える目をお持ちのようだ。大事にしなさい。例えどんな経緯だとて、力は力。それ以上でもそれ以下でもないからの。」
そう、呟くような俺とマスター・マスカルの会話は他の人達の耳までは届いていないようだった。
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