第69話 ベースキャンプへ

 倒れた巨人騎士スライム達が起き上がるまえにと、泡魔法を乱射していく。

 次々に泡に覆われ、さらさらとしたものに変わっていく巨大騎士スライム達。激しい振動がやみ、崩落も落ち着いた中で泡の弾ける音だけが辺りに響き続ける。無言のまま、その命を泡に覆われ散らしていくスライム達。そもそもが粘体のそれらは、ついに液体でもなくなり、消え去っていく。


「あ、やり過ぎた……」


 俺はすっかり魔石を確保するのを忘れていた。気がついた時には、魔石も含め、すべてが酸化され、跡形もなくぼろぼろに崩れきっていた。

 思わず膝をついて悔しがる俺。


 そんな俺に、戻ってきた江奈が声をかける。


「クチキ、……なにやってるの?」


「あ、エナさん。良かった、無事で。いや、何でもないよ。」


 俺は急ぎ立ち上がり、何でもない風を装う。


「……まあ、いいわ。さて、一回ダンジョンから出ましょうか。」


「ああ、うん。さすがにこのまま下層に向かうわけには行かない、か。」 


「ええ、資材も食料も何もかも足りないわ。それに……」


「それに?」


「師匠の弔いをしないと。」


「……そう、だね。館に寄って、せめて、何か遺品になるものを持ってく?」


「大丈夫、クチキがいない間に持ってきた。」


 そういって江奈は背負ったカバンから、一体のくまのぬいぐるみを取り出した。


「えっ、それ?」


「そう、師匠の趣味なの。これが確か一番のお気に入りだったはず。私も師匠の影響で、ぬいぐるみ集めていたから。前にクチキがウサギのぬいぐるみをくれたときには、びっくりしたわ。」


 そういって無理に笑顔を作る江奈。


 俺は無言でグランマントを取り出すと、トイボックスを発動する。

 ぽんっと音を立てて、何処からともなく現れるリボンのかかった箱。

 地面に落ちた箱のリボンがいつものようにするするひとりでにほどける。ゆっくりと開く。


 中から、煙の演出とともに、何かが飛び出してくる。


「これはっ」


 俺の、腕の中にちょうど飛び込んできたそれを、そっと江奈に手渡す。

 はじめはびっくりした様子の江奈だったが、やがて浮かび始める笑顔。それは、先程までの無理をして作ったのが丸わかりのと比べ、だいぶ自然に感じられるものであった。


 そっと、私が手渡した、おもちゃの拳銃をくまのぬいぐるみに持たせる江奈。そのおもちゃの拳銃は、マスター・オリーブハイブの使っていた不可視の拳銃をそのままミニチュアにしたかのような見た目をしていた。


 ◇◆


 その後、俺達は一旦ダンジョンから脱出した。

 ダンジョンの前には無数のテントが張られ、同じようにダンジョンから脱出したとおぼしき人々が忙しげに立ち働いている。

 すぐに江奈は顔見知りに声をかけられている。俺は一歩引いてその様子を見守る。

 どうやら共通の知人の安否の情報交換をしているようだ。


 すぐに江奈のダンジョンからの帰還が伝わったのか、詳しく事情を聞きたいとナインマズルから呼び出される。これまた江奈の顔見知りのガンスリンガーが一名、使いの者として現れると、ナインマズルの元へに案内されることとなる。俺も当然、江奈に同行する。


 すぐに、ひときわ大きなテントにたどり着く。


「こちらで、ナインマズルがお待ちです。」


 案内してくれたガンスリンガーの声を背に、俺達はそのテントへと足を踏み入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る