第31話 死か変容か
俺たちは重力軽減操作をかけ、滞空している。
足元は一面の薄青色のガス。
まるで雲海のようなそれは、ほとんどの生命に取っては致命的な危険を有している。
そんな危険物が漂う上空で、俺は沈んでいった羽付きトカゲ達の魔石を惜しんでいた。
(こんなに広がっていて、しかもダンジョンだけに、実際は密閉空間。回収は無理だろうな……)
俺のそんな内心の愚痴にアクアが答える。
「クチキ、俗物なの。」
「ぞ、俗物!? さすがにそれはひどくない、アクアちゃん。俺は一冒険者として、当然の心配をしているだけだからね。だって、ここが何層かわからないけど、絶対高額魔石だよ! もしかしたらネカフェ生活から脱出できるかもだよ!」
「ダンジョンから脱出出来るかも不明なの。そんな心配無意味なの。」
しかし、そう言いながらも、無表情でアクアは手を差し出してくる。その手には子供の握りこぶしぐらいの大きさの黒い魔石が一つ。
「それにアクアちゃんは、ひどくないの。最後の羽付きトカゲの脳天ぶち抜いたら、ちょうど魔石あったから、引き抜いておいたの。はい、これ。アクアちゃんに感謝するのだ。」
「おおっ。大きい! ありがとう! ここんなに大きな魔石、絶対オークション案件じゃん。数百万はするよ絶対。それだけあれば、保証人なしでもアパート借りられるかも……。」
俺は俗物呼ばわりされたことは綺麗に水に流し、アクアから魔石を受けとる。
「うむうむ。感謝しているなら、今後はアクア様と呼ぶのだー。」
アクアが調子に乗るので、とりあえず合わせてあげる。
「ははー! アクア様。恐悦至極でございまする。」
シアン化合物のガスの雲海の上で、手を繋ぎ、浮かびながらそんな茶番を繰り広げる俺とアクア。
アクアはすぐに飽きたのか、話題を変える。
「さあ、さっさと次の階層に行く扉を探すの。」
「探すったってどうやってさ? しらみ潰しに飛んでみる?」
「クチキ、馬鹿なの? シアン化合物のガスに沈んでいたら見えないの。だいたい、アクアちゃんはもう毒の処理は、いっぱいいっぱいなの。ガスの中を時間をかけて探すとか、こりごり。これ以上アーモンド臭は嗅ぎたくないの。」
文句を垂れるアクア。
「さっさと鑑定使えばいいの。この階層を鑑定したら扉の場所もわかるの。」
簡単に言ってくるアクア。
俺は反論する。
「痛すぎて無理だよ! どんだけ時間かかるかもわからないのに、耐えられないって。」
「じゃあイド生体変化で脳にデータ処理用の部位を作るの。それで完璧。」
「それは……。それで、本当にうまく行くの? それにさっきエラ作っちゃったから、イドの残りが少ないよ。」
俺が反論するとアクアはため息をつく。
「それなら先にイドを集合的無意識から汲み取ればいいの。」
「集合的無意識って、概念だけで実在はしないんじゃ?」
「アクアちゃんは集合的無意識経由で読心しているの。イドのすぐ下にあるんだから、つべこべ言わずにさっさと汲み取り器官を作るの。」
「そんな、性急な……。だいたいどこにどんなもの作るかわからないと。」
俺が困惑して答えると、アクアはさらに言いつのって畳み掛けてくる。
「クチキはすでにエラを大して理解しないで作っているの。イド生体変化のスキルにお任せで、データ処理器官もイド汲み取り器官も出来るから心配無用なのだ。」
何故かどや顔に見えてくるアクアの無表情な顔。
それが悔しくて俺は反論してみる。
「だいたい副作用とかないの?」
「少し、魂が変容したり、精神が汚染されるだけなの。命に別状はないの。ほら、ダンジョンで野垂れ死にたくないなら諦めて言う通りにするのだ。それか他のアイデアがあるなら言ってみるのだ。」
どうせそんなものはないだろうと言わんばかりのアクア。
「魂が変容したり精神が汚染されるって大事じゃん!」
俺は思わず大声で叫んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます