第28話 来襲

 俺がアクアの指さした先に目線をやる。


 そこには雲を突き抜け、天まで届く塔が建っていた。ここからは少し離れていそうだ。

 その高い雲の辺りから、何か黒っぽい鳥のようなものが飛んでいるのが見える。


「アクアちゃん、羽付きトカゲって、あれ?」


 俺が尋ねる。

 返事はない。

 アクアは何故か辺りを忙しげに往き来しながら何かしている。


「えっと、アクアさーん?」


「うるさいの。クチキも働くのだ。」


 どうやら石を集めているようだ。

 辺りは岩場なので、そこらへんにゴロゴロしている。


 俺も言われるがままに石を集め始める。


 俺の集めた石を見もせず、アクアが口を開く。


「もっと大きいの。なの。さっきの説明で言ったのだ、トカゲは遠距離から近づいて来ないから、石投げて打ち落とすの。そんなに小さいのはダメージないの。」


「あ、ああ。了解。」


 手早く大きな岩を集めていくが、すぐに羽付きトカゲ達がやってくる。


 俺は岩を集める手を休めてその姿をちらっと見る。


「ど、ドラゴンじゃんっ!」


 俺が驚きのあまり声を漏らすと、アクアは鼻をならして応える。


 詳細な姿が視認できるほどまで近づいてきた羽付きトカゲ。その姿はドラコンと見紛うばかりであった。

 黒く、艶のある鱗が全身をおおい、四つ足に、背中からは6対、12枚の羽が生えている。

 羽1枚1枚の大きさも大きく、それを波打つように羽ばたかせ、こちらに向かって近づいてきている。


(羽、多いな!)


「愚鈍で、図体ばかりででかくて重たいトカゲには、あれぐらいの浮力がいるのだ。」


 アクアが俺の心の声に応える。思考を読まれるのは相変わらず慣れない。


 そんなことを話している間にも、アクアは投擲体勢に入る。

 階層移動の扉を片手で押さえていた筋力は伊達ではないのか、大砲もかくやという速度で投げ出される岩。まっすぐに進んだそれは、羽付きトカゲの羽の1枚にあたり、粉砕して突き抜ける。


「おおっ!やった?」


 俺が歓声を上げるが、アクアは普段の無表情を微かにしかめ、渋い顔をしている。


 羽付きトカゲは1枚羽を失っても僅かにバランスを崩しただけで、すぐに体勢を立て直すと、その牙の並ぶ口を大きく開け、こちらに向ける。


「クチキ、急いでイド生体変化でエラを作れ。でないと死ぬのだ。」


「え、エラ!?ちょっと、そんなことすぐに言われても!」


「遅いの!ブレスがくる。」


 アクアが珍しく叫ぶ。俺たちの真上に来た羽付きトカゲの口から薄青色の気体が大量に噴出される。

 俺たちに向かってくるその気体。


「先に水で包む。溺れる前にエラを作るの」


 そういうと、アクアの右腕がドロリと液体化する。

 それを俺に向け、大量の水となった右手が俺を掴む。そのまま俺をその巨大な水の手の中へ、取り込んで行く。


 あっという間に、俺はアクアの右手だった大量の水のなかに全身が取り込まれてしまった。

 当然、顔も完全に水に沈む。


 とっさのことで、空気を肺に貯める間もない。


「ごはっ」


 思わず空気を吐き出し、水を飲んでしまう。空気を求めて体が暴れる。


(溺れる!溺れる!)


「邪魔なの! 動くな、なの!」


 アクアの声。

 ちょうどその時、羽付きトカゲから吐き出された薄青色の気体が俺たちに襲いかかってきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る