第27話 脱出行

 すぐにでも駆け出しそうなアクアを何とかなだめ、軽く肉で食事を済ませる。起きたときも少し食べたが、何だかんだと時間も経っているし、次いつ食べれるかわからないので、少し口にしておく。


 アクアにも勧めたが、食事は取らないらしい。何となく腑に落ちないものを感じつつ、準備を済ませる。


 そして、俺たちは骸骨のいる部屋を抜け、ドーム型の広場に踏み込む。

 一面の蒼色の粘液まみれだった広場はすっかりその跡形もなくがらんとしている。

 放置していてダンジョンに吸収されたようだ。


 俺たちはぐるりと広場を回る。骸骨のいる部屋と反対側のところで、壁に大きめの窪みがあるのを発見。小部屋のようになった窪みを覗き込むと、その先には宙に浮かぶ扉があった。


 枠が脈打つように大きくなるのと小さくなるのを繰り返している。

 かつては見慣れた扉だったが、一度挟まれ中の闇に強制的に捕まった経験からか、不気味に見えて仕方ない。


 俺が近づくのを躊躇していると、それを見たアクアが、ふんっと鼻をならして扉に近づいて行く。


 扉の枠が最大の大きさになる所まで近づくと、立ち止まるアクア。

 軽く腰を落とし、軽く膝を上げると、勢いよく踏み下ろす。それは震脚のような技巧的なものの一切ない、力ずくの動作。


 しかし、その効果は予想外のものだった。

 鈍い破砕音とともに、ダンジョンの床に穴が開く。

 ちょうど足形に空いた穴に、そのまま足を引っかけると、アクアはおもむろに扉の枠に手をかける。


 それだけで、伸縮を繰り返していた扉の枠の動きが止まる。


 平然とした顔のアクア。

 しかし、足をつっこんでいる穴はミシミシと音を立て、徐々に広がり始めている。

 ピシッと床の石材料の破片が飛ぶ。


 アクアは無表情で、枠を掴んでいない方の手の親指を立てる。

 そのままくいくいっと親指で扉の闇を指す。


(さっさと行けってことか。)


 俺は生唾を飲み込み、意を決して扉に向かって歩き出す。


(どちらにしても扉を通らなきゃ出られないんだ。)


 ついに目の前に扉の枠で囲まれた闇が迫る。


 最後の一歩が踏み出せない。

 そこにアクアの声がかかる。


「枠を押さえてりゃあ大丈夫なのだ。さっさと行くのー」


 何故かアクアの棒読みの声に気が抜ける。俺は目をつむると、一気に扉に飛び込んだ。


 それを見届けたアクアもすぐに続いて飛び込む。


 誰も居なくなった場所で扉の枠だけが静かに伸縮を再開していた。


 目をつぶり、扉に飛び込んだ俺はすぐに目をあけ、扉の前からどくと、辺りを見回す。

 すぐあとからアクアが出てくるのを確認する。


 そしてそのまま再び辺りを見回してしまう。

 思わず独り言が漏れる。


「空がある……。外?」


 ゴツゴツとした岩場。上を見ると雲一つない青空が見える。


 アクアが応える。


「外な訳ないの。空に見えるのは幻想。ここは、ダンジョンの中なのー。しかも、最悪なことにトカゲ臭いの。きっと羽付きトカゲ達の狩場なのー。」


「羽付きトカゲって聞いたことないけど、どんなモンスター?」


 俺がアクアに尋ねると、アクアは無表情だった顔を少し歪めて応える。


「羽付きトカゲは臭くて卑怯なのー。遠くから、よってたかって遠距離攻撃ばかりしてくるの。」


 空中に向かってパンチを繰り出しながら忌々しげに話すアクア。


 突然、アクアが指を指す。


「トカゲ臭が増してきた。あの真ん中の塔から、来るよー、羽付きトカゲ。」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る