第26話 アクア
捲し立てるアクアの隙を狙って、何とか質問を挟み込む。
「アクアちゃんは人間じゃないんだよね?スライムなの?」
「スライムみたいな単細胞生物と一緒にしないで欲しいのー!クチキは猿のー、亜種なのだー?」
無表情だったアクアの顔に僅かに怒気が宿る。
おれは慌てて謝る。
「え、ごめんごめん。じゃあえっと、種族を聞いても?」
「人間の概念には無いから聞いても無駄なのー。どうしても種族で呼びたいなら、ノマド・スライムニアとでも呼ぶのだー」
俺はその返答を聞いて考え込む。
(ノマドは確か遊牧民とかって意味だよね。スライムから進化した遊牧の民ってこと?それかノマドワーカー的な意味なのかな。)
俺が黙りこくっている間、アクアは、なにやら準備体操みたいなことをしている。
俺は何しているのか気になりつつも、突っ込むと長くなりそうなのでとりあえずお礼を言って聞きたいことを優先させる。
「あ、教えてはくれるんだ。ありがとう。それで、この状況なんだけど、何か分かることはある?」
「考えていることは駄々もれなの。アクアちゃんはクチキの記憶にあることしか知らないから、その質問は無意味なのー。」
アクアはシャドーボクシングらしき動きをしながら応える。
「あー。ですよね。じゃあ、召喚については?」
「それは秘匿事項だから言えないの。言えるのは、アクアちゃんを呼び出したカードは、プライムの世界の魔法体系に連なる物なのー。その魔法体系の中には狭間の向こう側の知識を持ち込むことを禁じる項目があるの。言えるのは、召喚されたらアクアちゃんは苦労して狭間を越えて来て、送還されたら苦労して狭間の向こうに帰るのだ。」
だんだんアクアの拳の速度が上がり始める。
「うーんと、召喚したときにカードがアクアちゃんに変わったように見えたけど、それは?」
「秘匿事項ー。」
シュッという風切り音。
「送還したら、カードにまた戻る?」
「カードはまた、現れるのー。」
アクアのハイキック。
「召喚の時のリスクとか対価は?」
「秘匿事項ー」
ボディブローからのラッシュ。
俺はその応えにまた考え込む。
(対価がないとは言っていない……。何かがあると考えるのが普通だよな。)
俺はステータスを開いてみる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)
年齢 24
性別 男
オド 24
イド 11
装備品
ツインテールウィップ (スキル MCドロップ率UP)
革のジャケット
カニさんミトン (スキル 強制酸化)
なし
Gの革靴 (スキル 重力軽減操作)
スキル 装備品化′
召喚顕在化 アクア(ノマド・スライムニア)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(特にマイナス効果はなしか。イドが減少している様子もないし。)
俺は頭をひねりながらアクアの様子を伺う。アクアはシャドーボクシングが終わったのか、次はよくわからない武術っぽい型をしている。
人ではあり得ない関節の動きと、所々手足が伸びているせいか、見たこともない不思議な動きを繰り返している。
「アクアちゃん、それでさ、俺はこのダンジョンから脱出したいんだけど、戦闘とか協力してくれる?」
アクアは息を切らすことなく、型を高速で繋げながら応える。
「仕方ないー。手伝ってもいいのー。」
「ああ、良かった。よろしくね。それで、さっきから何しているの?」
俺はとりあえず戦力になりそうで安心する。
「顕在したのが久方ぶりだから、身体を慣らしているのだ。」
そういうと謎の型の動きをやめるアクア。こちらに蒼色の瞳を向けて宣言する。
「それでは行くのー。立ちふさがるものは全てボコって行くのだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます