第14話 第2層へ

 俺は第2層の入り口に来ている。


 昨日、スタンピードがあったばかりだというのに、第1層の広場では喧騒に満ちていた。


 もちろん、そこかしこにスタンピードの落とした影は見えた。誰もがいつも通りに振る舞えているわけではない。

 見知った顔が休んで、ぽかりと屋台が空いていたり、屋台自体が傷ついて応急処置で営業している者もいた。


 そんな屋台で話される話題は1つ。


 支部長の話していたダンジョン全世界同時多発的活性化のニュースはあの日の夜にはネットを駆け回り、次の日の朝のテレビのニュースはこの話題が席巻したらしい。


 様々な評論家達が明るい未来、暗い未来を我が物顔で語り出す。


 ダンジョンの活性化は様々な可能性をもたらす。

 新たな未知のモンスターは新たな資源になりうる。ユニークスキルの解析が次の技術革新をもたらす可能性も高い。

 もちろん、スタンピードの発生による人的被害。ダンジョンの因子の拡散による居住区域の圧迫等も生じ始めている。


 しかし、最前線にいる冒険者達は、皆、いつも以上に活発に活動をしている。

 新たなる可能性を求めて。

 新たな危機を阻止しようと。


 それにつられるように、商売をするものたちも盛んに声を張り上げ、今が稼ぎ時とばかりに売買に勤しむ。


 俺も数人の顔見知りと互いの無事を祝い、珍しく買い物までした。


 折れた鉈を買い換えたのだ。巨大ピンクキャンサーの魔石のお陰で懐はまだまだあたたかい。


 そうして最初の入り口を抜け、洞窟状の通路を進む。第1層は特に気を付けるポイントもなく、地図も完全に解明されている。


 俺は迷うことなく、第2層へと続く扉に到着した。

 それは、何でもないただの通路にぽっかりと浮いている、地面からは20センチぐらい離れた空中にある扉の枠。

 しかし、その大きさは不定形である。人一人が通るのがやっとの大きさから、通路のほぼすべてを占めるぐらいの大きさまで、ゆっくりと変化を続けている。


 枠の中は真っ暗で何も見通すことの出来ない闇が満ちている。反対側からも同じく闇が満ちているのが見える。


 俺はある程度扉が大きくなったタイミングで、2層へと続く闇へと一歩踏み出した。

 闇の中に体が入っていく不思議な感覚。

 物理的な抵抗は一切ないはずなのに、何故かぬぷぬぷと、体が横に沈み込んでいくような幻覚にさらされる。

 そして気がついたときには第2層に立っていた。

 周囲の警戒を行う。

 背後には俺が今通ってきた扉。

 モンスターの気配はない。


(何もいない、よな。)


 2層も1層と同じく洞窟タイプのダンジョン。

 ただ、その壁や床の質感だけが違う。

 1層が黒っぽい岩の洞窟のようであったのに対し、2層はより土色に近い。


 俺は、慎重に足を進める。

 すぐ近くの壁まで来ると、壁を背に立ち、死角を減らす。

 第2層からは人を殺しうるモンスターが出るのだ。


 俺はスマホを取り出し、月額有料地図アプリ『ダンなび』を起動する。

 スマホにダンジョンの地図が表示される。

 俺が今入っているような、人の手がある程度入っているダンジョンは、各層に基地局が設置されている。

 各基地局同士を繋ぐ技術はとあるユニークスキルを解析して開発された新技術が使われているらしい。

 まあ、なんにせよ、俺みたいな冒険者にはありがたい話である。たとえ月額有料制だろうが。


 俺は『ダンなび』に従い歩き始める。しかし、スマホばかりに気をとられているのは致命的だ。そう、ここには出るのだから。


 ちょうど俺の前方、壁にへばりついている。


 そこには第2層のモンスター。

 俺の身長ぐらいある黄色のナメクジ、イエロースラッグがいた。

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