第13話 冒険者協会支部

 俺の目の前には、この地域の冒険者協会の支部長が座っている。


 にこにこと、人の良さそうな笑顔を浮かべる初老の痩せた男性。しかし、こちらを見ているがその目に宿る怜悧な光が、人の上に立つものの貫禄をいやがおうにも示している。


 バイト以下の底辺冒険者にとっては雲の上のって感じの相手だが。どうやら噂通りの切れ者っぽい。


 支部長が口を開く。


「やあ、朽木君。今回はご苦労様。活躍はきいたよ。座って座って。」


「あ、はい。ありがとうございます。でも、ガンスリンガーの皆のお陰ですよ。」


 俺は手前のソファーに座りながら答える。


(あー。名乗らないタイプの人か。)


「もちろんもちろん。しかし止めを刺したのは朽木君なのだろう。それで、早速なのだがね、巨大ピンクキャンサーの魔石を売ってもらいたいのだよ。」


「……よく私がキングスマンさんから魔石を預かっているとわかりましたね。」


「ああ、それは本人から聞いたからね。止めを刺したのは君だから君に魔石を渡すと言っていたよ。」


「そうですか。もちろん売るのは構いません。元々協会で売るつもりでしたし。ただ……」


「なんだい? 言ってごらんなさい。」


「討伐に参加したガンスリンガーの方たちへの売り上げの分配と貢献ポイントもお願いしたいのですが。」


「ああ、勿論だよ。規定に乗っ取って手配しておくから安心したまえ。しかし、売り上げを分配するなんて欲がないね、朽木君も。」


「ご配慮、ありがとうございます。皆の手柄ですから、魔石の売り上げの分配は当然ですよ。」


(なんだ、やけに優遇してくるな。分配はともかく、貢献ポイントの付与も快諾してくるなんて。よっぽどのことがあるのか。深入りしない方が無難か?)


 そんな俺の思惑とは裏腹に、勝手に語り出す支店長。


「いやー。しかし快諾してくれて良かったよ。その魔石、なんか変でしょ。やけにゴツゴツした突起がついていてさ。初めてみたときに、何か不気味な感じがしなかった?」


「……そうですね。」


「そういや、今、全世界同時多発的にダンジョンで活性化が起きているみたいなんだよね。いくつものスタンピートが観測されているし。朽木君はダンジョンの総数は知ってる?」


「いえ……。沢山ですよね。」


「沢山っ! いや、まあ沢山あるんだけどね。それでさ、ここ百年で初めてその沢山あるダンジョンの増加が観測されたんだよ。」


「なんでわざわざそんなことを俺に?オフレコの情報じゃないんですか。」


「なーに。すぐにマスコミにも発表される情報だよ。何故に君に話すかというとね。まあぶっちゃけ協会は今回の観測史上初とも言える世界同時多発的活性化のことを調べているわけ。それで、朽木君にも、何か知ってることはないか聞こうと思ってね。」


(つまり、反応を探ってたわけか。しかし、なんで俺なんかの?)


「いやー、特にないですね。ダンジョンの浅いところで小銭を稼いでるような人間なもので。」


「そうだね。2年間、ほぼ一層にしか入っていなかった君が、まさかスタンピートのボスを倒すなんてね。大金星だよね。」


「偶々ですよ。」


 俺はやな予感がし、言葉少なく答える。


 そんな俺の様子を逐一観察しているような支店長の視線。


「そうかいそうかい。まあ、何にしても今後の活躍、期待してるからね。ああ、実際の魔石の受け渡しは下の特別室を使ってくれたまえ。」


 それが退室の合図だったのだろう。

 俺は暇ごいを告げ、支店長の部屋を出る。


 特別室とやらの存在は噂には聞いていた。受付の奥にあるその部屋ではトップランナーの冒険者達が常用している場所らしい。


 俺は階段を下りると受付に声をかけた。



 そして、無事に魔石の受け渡しを終えた俺は、いつものネカフェに向かっていた。

 先ほどの特別室でのことを思い返しながらてくてくと歩く。  


(金のかかった部屋だったなー。対応の人も丁寧で。あれで冒険者をいい気分にさせてうまく転がしているんだろうな。)


 良く行くコンビニが見えてくる。

 今日は疲れたから食べに行くのも億劫なので、コンビニで済ませることにする。

 懐もあたたかいので、ホットスナックを中心に、贅沢に食べ物を買い込む。


(あんまんと肉まん、どちらにしようかな。よし両方買おう!)


 コンビニを出るときにはなかなかの荷物になっていた。


(今日は念願のあれ、やっちゃおうかな。)


 ネカフェにつく。

 俺は受け付けに行くと、店員に声をかける。


「ファミリールーム、フリータイムでお願いします!」

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