第7話 幼なじみ

 俺は小まめにステータス表示を試みる。

 今のところステータスが開く様子はない。


「よし、敵はいないみたいだな。そういや、さっきのソードグラスホッパーはダンジョンから溢れたのかな。だとするとダンジョンの入り口はすでにモンスターで埋め尽くされている……?」


 俺は嫌な想像をしそうになるのを振り切る。


「いや、それならここら辺に、もっとモンスターが出てきているはず。あ、もしかして『湧き』か?」


 俺は周囲の警戒を続けながら移動しつつ、スマホで『湧き』について調べる。


「確か、そうそう、これだ。スタンピートが起きると、ダンジョンの因子がダンジョン外まで広がって、そこにモンスターが湧くことがあるんだよな。」


 俺はスマホをしまい、再度ステータスを開く。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)

 年齢 24

 性別 男

 オド 21 

 イド 3 (11)


 装備品 

 ホッパーソード (スキル イド生体変化)

 革のジャケット 

 なし

 なし

 Gの革靴 (スキル 重力軽減操作)


 スキル 装備品化′

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ステータスが開く。


「!」


 俺はとっさに近くの電柱の影に身を潜める。

 ホッパーソードの柄に、手を添える。


 そのまま、そろそろと辺りを見回す。


 うららかな午後の日差し。

 物音一つしない。

 動くものは影一つ見えない。


 俺は止めていた息をゆっくり吐き出し、深呼吸をする。


(まだ、警戒は解けないが、敵は見えないな。)


 全方位を警戒しながら、考える。


(これはダンジョンの因子がここまで広がっていると考えた方がいいかもな。と、するといつモンスターが湧いてもおかしくない。強行だが、急いだ方が良さそうだ。)


 俺はちらっとステータスに目をやる。


(イドが3しか残っていない。さっきより、これでも精神的にだいぶましになったから、イド生体変化のスキルを使うと、イドを8~10は使うんだろうな。今日はもうこのスキルは使えないか。)


 俺は警戒をしつつ、急いで再度移動を始める。出来るだけ壁の側を移動するように心がけ、死角を減らすように意識する。


(次の角を曲がれば、ダンジョンの入り口が見えるはず。)


 ガヤガヤと物音がしてくる。


(戦闘音じゃなさそうだ。人の声らしき物も聞こえる?)


 俺は角まで急ぎ、そっと覗きこむ。


「ああ。よかった。」


 そこには県軍の姿があった。

 俺は急いで駆け寄る。検問がひかれていたので、冒険者カードを示して入れてもらう。


「すいません! 中の様子はどうなってます?」


「お、竜胆じゃないか。」


 俺は自分の名を呼ぶ声に振り返る。


「ああ、奈瑞菜(ナズナ)か。そういや、県軍に入ったんだったか。」


 そこに立っていたのは県軍の軍服に身を包み、銃剣のついたアサルトライフルを抱えた幼なじみの姿があった。

 元々凛々しい顔つきだったが、短く切り揃えられた髪に、記憶にあるより鋭さをました眼光は、猛禽のような鋭い印象を感じさせる。


「竜胆も、色々あったらしいな。何とかやってそうで、何よりだ。」


 奈瑞菜の視線がちらりと俺が持ったままの冒険者カードを見る。


「竜胆、ダンジョンに行くのか?」


「取り敢えずは内部の情報を知りたい。」


「ああ、わかった。だが幼なじみとはいえ、開示できる情報は規約通りだぞ?」


「それでいい。それより奈瑞菜は話していて大丈夫なのか?」


 俺は周りの県軍の軍人達をちらちら見ながら質問する。


「今は半待機だ。冒険者への情報開示も業務のうちだしな。それで内部の情報だが、民間人の退避は完了。販売登録証で本日ダンジョンに入場登録している者は全て確認出来た。」


「そうかー。よかった。それは本当によかった。」


 俺は最大の心配ごとが杞憂に終わり、大きく安堵のため息をつく。


「何だ、恋人でもダンジョンで屋台やっていたのか?」


 奈瑞菜の瞳が、からかうような光を魅せる。

 微かな笑みで、昔の可愛いげのあった頃の面影が甦る。


 俺は少しドキッとしながら答える。


「そんなわけないだろ。知り合いが結構いるんだよ。それだけさ。」


「ふん、そうか。」


 何故か先程より笑みを深めて答える奈瑞菜。


「いいから続き。」


 俺はせかし気味にきく。


「それで内部の状況だが、最初の広場は、現状まだ確保出来ている。ガンスリンガー達が中心になって防御線を構築してくれている。」


「ガンスリンガー達だけだと継続戦闘が厳しいだろ。近接タイプの中級は? 二つ名持ちの人たちとか。」


 僅かに渋い表情を覗かせる奈瑞菜。


「まだ、誰も。時間帯的に皆ダンジョンに潜っているはずなんだが、入り口広場まで戻っていないんだ。」


 俺と奈瑞菜の間に重めの沈黙が落ちる。

 俺から沈黙を破る。


「中の広場は誰がまとめ役をしている?」


「江奈・キングスマンだ。彼女はあと少しで中級だからな。」


「エナさんが……」


 俺は、ホッパーソードの柄を握りしめ、ダンジョンの入り口を見つめる。


(これは、やっぱり行かなきゃな。)

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