第5話 公園の戦い

 俺は愛用の鉈を握りしめ、そっと公園の入り口まで回り込む。


(ここからだとソードグラスホッパーの後ろになるが、多分後ろまで見えているだろうな。奇襲は難しいかも。)


 スキルが使えることを確認し、自身の体と鉈に、重力軽減操作をかける。


 手のひらに滲む汗。

 ズボンで拭う。


 ソードグラスホッパーまで、公園の入り口から10メートルほど。

 こんなに至近距離に、こちらの命を奪いうる存在がいることに、恐怖と、何故か興奮を覚える。


 俺は、わき上がるアドレナリンのままに、公園の入り口から飛び出し、ソードグラスホッパーに襲いかかる。


 重力の軽減された体は軽やかに駆け、一気にソードグラスホッパーに肉薄する。


 俺の接近に複眼で気がついたのだろうソードグラスホッパーは、その鋭い切れ味を誇る後脚を横薙ぎに攻撃してくる。


 飛び上がり回避する俺。


 重力の軛が常人よりも軽い俺のジャンプは、ソードグラスホッパーの意表をつき、軽々と横薙ぎの後脚をかわす。

 最高点に達した瞬間、重力軽減操作のスキルを止める。


 一気に押し寄せる重力に、俺の体は上空から急加速してソードグラスホッパーに襲いかかる。


 自身の加速を乗せた鉈の打ち下ろし。

 一瞬俺を見失い、横薙ぎを空振りしたことで体勢の崩れたソードグラスホッパーの胴体に、鉈が深く抉り込まれていく。


 昆虫の外骨格の硬さのあと、ズブズブとした感触が鉈越しに手のひらに伝わる。


 その時、ポキッと鉈が折れる。


 自身の体重の全てが掛かっていた鉈が折れたことで、ソードグラスホッパーに伝わりきらなかった残りの勢いで、俺はつんのめり、ゴロゴロと地面に投げ出される。


 俺は意識してそのままコロコロと転がり、ソードグラスホッパーから距離を取る。


 急いで立ち上がり、ソードグラスホッパーの方を振り返ると、ちょうどソードグラスホッパーが光の粒子となるところだった。


「やった! 装備品化スキルきた!」


 俺は急いで駆け寄る。


 ソードグラスホッパーだった光の粒子が再構成され、そこには一振りの小太刀が残されていた。


 柄頭にバッタの意匠の入った、肘から指先程度の長さの真っ赤な小太刀。

 俺は折れてしまった鉈のかわりに小太刀を手に取り、ステータスを開く。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)

 年齢 24

 性別 男

 オド 21 (2up)

 イド 11 (4up)


 装備品 

 ホッパーソード (スキル イド生体変化) new!

 革のジャケット 

 なし

 なし

 Gの革靴 (スキル 重力軽減操作)


 スキル 装備品化′

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「すごい、この小太刀、イドもオドも上がる! しかも、なんかまたスキルがついているよ! 名前はホッパーソードか。まんまだな。あ、やべ……」


 ステータスが開いた意味を失念していた俺の背中に、茂みから飛び出してきた二匹目のソードグラスホッパーが襲いかかる。


 飛び出したままの勢いで、俺の背中に体当たりするソードグラスホッパー。


「ぐはっ、っっ」


 俺は、バイクにはねられるのもかくやという勢いで、大きく弾き飛ばされる。

 受け身も取れず、ゴロゴロと土の上を無様に転がり止まる。

 背骨に激痛。


「うぎゃああああーーーー」


 あまりの痛さに、立ち上がることも出来ない。

 僅かな身動きでも、背中から激痛が全身に駆け巡る。


 痛さのあまり朦朧とする意識の中、ソードグラスホッパーが近づいて来るのが目にはいる。

 必死に息を整えるが、呼吸すらも痛みを生む。


「かはっ、げっ。げふぁ……」


(ヤバいヤバいヤバいヤバい。死ぬ。このままじゃあ死ぬ。不味い不味い不味い。何か、何かないのか。)


 俺は、身動きが取れない中、ひたすら瞳だけ眼球だけキョロキョロと動かし、必死に何かないかさがし続ける。

 手に持ったままのホッパーソードが目に入る。


(ダメ元だ。スキルを、使う!)


 俺が背中の激痛に意識をとられながらも、イド生体変化とスキル発動を念じた。

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