第4話 兆し

 初めての装備品化スキルを使ってから一週間がたった。


 毎日潰しを行い、1日6000円前後の、安定した収入を得ている。重力軽減操作スキルの扱いに慣れるにしたがって、徐々に潰しの速度も上がり、余った時間は準備に当てている。

 先日、無事に貸ロッカーの契約も終わり、今日は朝から格安SIMのスマホの契約に行っていた。


 この生活になって手放してしまったスマホ。

 ついに再び、我が手に。


 うはうは気分で店を出る。


(どこか早くフリーWi-Fiポイント探そっ)


 ネットで調べた、『ダンジョンに潜ろう』のページに載っていた準備はだいたいこなした。

 明日はいよいよ第二階層の探索を始める。

 何度か第二階層へ赴いたことはあれど、ほんの入り口で引き返してばかり。本格的な潜行は、今回が初めてとなる。


 エマさんへ連絡? 当然していません。連絡先知らないし。


 まあ、そんなこんなで明日まで、しばしの休息。

 この一週間は目一杯動き回った。

 しばし、新しいスマホ様と親睦を深めなければ。


「まずは腹ごしらえかなー。」


 契約やらなんやらで、すでにお昼もだいぶ過ぎている。


 俺はすっかり行きつけになった牛丼屋に足が向く。


 あと少しで牛丼屋というところで、買ったばかりのスマホから緊急事態警報のアラームが鳴り響いた。


 嫌がおうにも不安を煽ってくるアラームの響き。


 道行く人のスマホから。

 各家庭のテレビから。

 そこかしこから、アラームの音が鳴り響く。


 アラームが止み、普段は町内のお知らせを告げる街角に設置されたスピーカーが一斉に作動する。


「スタンピート発生。スタンピート発生。至急避難を。至急避難を。」


 アラームの後に流れた自動音声は最悪の事態が発生したことをこの町に告げていた。


 俺はとっさにステータスを確認しようとする。


 開かない。


(よし、この近くにはモンスターはいないな。)


 ダンジョンの因子を宿した存在が近くにいると、ステータスの閲覧や、普段ダンジョン内のみで発現するスキルや魔法が使える。冒険者に成ったときに受ける初心者講習の内容を思い出す。


 その講習では、スタンピート時はこまめにステータス閲覧を試し索敵しろと習った。


「セオリーだと、緊急避難場所へ向かって、後方支援するのが推奨、だったよな。」


 俺は呟く。中級以上の冒険者に課せられる、スタンピート発生時の討伐義務のまだ無い俺みたいなのは、可能な限り後方支援に努めるように言われてはいる。


「でも、今の俺なら、きっと戦えるはず。」


 俺の頭には、普段とりとめの無い会話を交わしていたダンジョンで屋台をやっているおっちゃんや、顔見知りの冒険者の顔が浮かぶ。

 

(この時間なら普段はまだ、みんなダンジョンにいる。せめて様子だけでも……)


 スキルを手にし、準備を整えていたことで、冷静な判断とは言いがたい決断を俺はしてしまう。


 周囲の人が一斉に避難して行くなか、俺はゆっくりとダンジョンに向けて歩き出した。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)

 年齢 24

 性別 男

 オド 18

 イド 7


 装備品 

 なた 

 革のジャケット 

 なし

 なし

 Gの革靴 (スキル 重力軽減操作)


 スキル 装備品化′

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 ステータスが開いた。


 俺がこの前打ち上げをした公園に差し掛かった所。

 とっさに身を伏せ、周囲を警戒する。


 どくどくと波打つ鼓動がうるさい。


 道の前後にはモンスターの姿は見えない。


(公園の中か?)


 しゃがんだまま、そっと足をすすめ、公園の生垣の隙間から中を覗く。


(いない…… いや、いた!)


 倒れ伏すスーツっぽい姿の男性と、それに覆い被さるモンスターが見えた。


(あれは、ソードグラスホッパーか。第三層のモンスターだったよな)


 大型犬サイズの、後脚が鋭い剣のようになっている真っ赤なバッタが、そこにいた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る