賞味期限#2
山盛りのサラダに悪戦苦闘していたところでハミングバードに新たな客が現れた。
ドアベルを鳴らして現れたのは質素な服装の母娘。
二人とも黒髪で、余り手入れの行き届いていない髪を伸ばしている。
二人が座席に着いたところで、ママがメニューと水を差し出す。
ママの対応からするに、どうにも新顔のようだ。
この街の住民の全員がこの店の常連というわけではないが、もしかしたら、余所からやってきた人間かも知れない。
暫くメニューを眺めていた母親は、傍らにいる娘に小声で何かを尋ねた。
娘は静かに頷いている。
その様子が、余りにも静かに行われたからか、どことなく厳かな雰囲気がその母娘には感じられた。
サラダを二皿まで片付けたところで、母と娘にも食事が出された。
暖かなカレーと、暖かなパンが一つ。この店のメニューの中では一番安いものだ。
それを母親が一口二口食べた後、残りの全てを娘に渡した。
娘はそれを受け取り、黙々と。あるいは楚々とした佇まいとでも言うべき静けさで平らげている。
まるでハミングバードには似つかわしくない、気品の感じられる食事風景。
食器の音を微塵も立てずに行われる厳かな
疑問を解消するために、俺は水を取りに行くのを装い席を立つと母親の左腕にある時計を確認した。
時刻は既に12時に達そうとしている。長針が示す残り時間はあと5分もない。
それを確認すると、俺は席についてその行動を後悔した。
この地球に残された人間には、賞味期限が定められている。
人生を味わう権利。
この地球を消費しても良いとされる
星を長らえるため。自然に負けた人類がそれでも生き残っていくため。
定められた不自然な決まり事。
人間は根源的に時間的存在である。
故に、地球に生きる人々は自分の寿命を予めパッケージングされるに至った。
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