アスランとの再会

 カロイの街から王都までは遠い。通常の旅なら十日、急いで行けば六日の旅路である。しかし、駅亭を乗り継げば、悠に4日程度の距離でもある。


 シャナンは行きとは異なる行軍速度に少々疲れを覚えていた。カロイの街に来る時は、様々な場所に立ち寄り、ゆっくりと旅をしたため、ひと月余りの時間を掛けた。

 だが、今回は急ぎの旅である。カロイの街から王都まで馬を乗り継ぎ休まる暇もなく移動を続けている。


 4日目の朝、シャナンは疲れた体を押してベッドから起き上がる。順調ならば、今日には王都につけるだろう。


「シャナン。少々お疲れの様ですね」


 傍にいるカタリナが話し掛ける。シャナンは言葉を返さず、ただ頷いた。


「今日には王都に着くでしょう。もう少しです。頑張って下さい」

「うん……」


 カタリナの励ましに力なく応える。シャナンはカタリナがあまり疲れを見せない点が少し不思議だった。魔法使いである彼女は体力のステータスが低い割には元気である。ステータスの値はシャナンより少し高い程度であるにもかかわらずに。


「ねえ、カタリナは何でそんなに元気なの?私とそんなに体力が変わらないはずなのに、どうして?」


 何気ない質問であった。だが、一瞬だがカタリナの動きが止まる。その後、何事もなかったかの様に答える。


「実は、私、最近になって"自己修復"のスキルを得たのです。なので、少しばかりの体力消耗なら自動で回復するのですよ」

「えー、良いなぁ。私もそのスキル、欲しいよ〜」

「ふふ、シャナンなら、その内に使える様になりますよ。さあ、朝食に行きましょう」


 カタリナは微笑みでもってシャナンに応える。シャナンも少しはにかんで、その場は終わった。


 シャナンとカタリナが宿の食堂に行くと、人だかりが出来ていた。駅亭など大して面白い物がある訳でもない。そのため、暇を持て余している旅人たちは良く各地で手にした珍しい物を見せびらかしたり、販売したりして時間を潰すことが多い。今回もそんな程度だろう、と二人は特に気にも留めていなかった。


「カタリナ、今日の朝ご飯は何だろうね?」

「そうですね。この辺りは燻製肉が有名ですので、燻製肉を使ったサンドイッチとかでしょうか」


 二人は呑気に話をする。二人にとって、人だかりよりも朝ご飯の内容が重要なのだ。


 その時、焦った表情を見せるルディが席までやって来る。


「お、おい。お前ら、飯なんて食ってる場合じゃねぇ!」

「え?何かあったの?ルディ」


 いつもと違う態度にシャナンは少し緊張した面持ちとなる。何やら悪いことでも起きたのかと思い、シャナンは少々不安に感じた。


「き、聞いて驚くなよ!なんと…」

「そこから先は私が話すよ、ルディ」


 赤い外套を纏い、軍帽と軍服に身を包んだ男がルディの話を遮り、話を始めた。


「ア、アスラン!?どうしてここに?」


 王国の第二王子、アスランが目の前にいる。王都にいるはずのアスランが何故にこの駅亭にいるのか。シャナンは驚きと嬉しさが綯交ぜになったと不思議な顔をする。対して、アスランは微笑みで返す。


 アスランはゆっくりと、優しくシャナンに話し掛ける。


「やぁ、シャナン。久し振りだね。元気にしていたかい?」

「う、うん!」


 思わず大きな声で返してしまったシャナンは自分の声の大きさにびっくりした。久し振りに会うアスランに思ったより自分が興奮しているとシャナンは感じた。


 シャナンの大きな声を聞き、アスランは少し苦笑して応える。


「ふふ。相変わらず元気だね、シャナンは。元気そうで何よりだ」

「へ、へへへ。そ、そうかなぁ?」


 シャナンは思わず鼻を擦る。疲れから落ち込んでいた気分も、アスランの一言で吹き飛んだ気がした。


 しかし、ふと冷静になり考えてみる。何故、王都にいるはずのアスランが駅亭にいるのか。この駅亭は王とからかなり近場に設置されているため、一刻も早くシャナンたちに会いに来たと考えられるかもしれない。

 しかし、わざわざ会いに来なくとも、今日中には辿り着く予定であった。駅亭まで、それにこんな早朝に来るとは何か緊急事態があったのかも知れないとシャナンは思った。


「ねぇ、アスラン。どうしてここまで来たの?何かあったの?」

 

 シャナンの疑問にアスランは笑みを崩さず答える。


「ああ。だが、この場所は思ったより目立つ。キミたちの泊まった部屋に行って話さないか。トーマス、ルディ、セシルにカタリナ。キミたちにも用事がある。ついて来てくれ」


 アスランは五人を引き連れて、宿屋の部屋に向かった。


──

───

「世界の理に掛けて、密かなる鍵を我が言に乗せよ。暗号サイファー


 アスランは幾つかの魔法を唱えて、部屋に防諜魔法を掛ける。どうやら本当に誰にも聞かれたくない内容なのだろう、とシャナンは思う。


 一通り魔法を掛け終えて、アスランは一行に向き直る。


「これでいいだろう。では、話を始めようか」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 セシルが話に割って入る。


「どうした?セシル」

「い、いえ…あの、私たちも話を聞いていい物なのでしょうか。先ほどから殿下のご様子を見る限り、非常に何か重要なことを話される様でして……部屋の入り口には兵士も立たせていますし、ただの一介の…それに新兵の私たちが聞いていい物なのかと……」


 歯切れが悪くセシルが尋ねる。わざわざ王都から王族の一人が出向いて来るとは、とても重要な用事に違いない。如何に勇者と共に旅をしていたとは言え、ただの新兵であるセシルには荷が勝ちすぎると思っていた。


 だが、アスランはセシルの言葉に笑みを持って答える。


「構わない。いや、寧ろキミたちの協力が必要なのだ」

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