勇者狩り

「きゃあああ!」

「い、岩が!危ない!」


 魔族が放つ攻撃の第二波により、シャナンたちの居場所の上部から大小の岩が落ちてきた。


「二人とも!こっちに来て!」


 シャナンは、嘆きの壁にある僅かな隙間を発見してアチャンポンとンゲマを誘導する。二人は慌ててシャナンのいる隙間に駆け込んだ。


 その瞬間、岩が雨霰に降り注ぎ、あたり一面に土煙が舞う。後一歩遅ければ、あの中にいたかもしれないと二人は顔を青くする。


「あ、危なかったわ……シャナンちゃんが、この場所に誘ってくれなかったら、どうなっていたか…」

「そうだな。シャナン。助かったぜ」


 シャナンは二人の言葉を他所に、何故魔族がこの街に来たのか考えていた。カロイの街は辺境に位置し、魔族の国との国境近くではある。だが、それだけである。商業が栄えている訳でもなく、軍事上の要所と言うには立地が悪すぎる。


 何故この街に魔族が来たのか……シャナンは思考を巡らして考える。だが、その答えは不意に訪れる。


 魔族の声が聞こえて来る。何処から聞こえてくるのか分からない。だが、聞こえる内容はシャナンの意識を切り裂くに十分な内容だった。


 魔族の話が終わり、アチャンポンとンゲマが驚きの顔を見せる。


「ゆ、勇者がいるのかよ……この街に……」

「知らなかったわ……ねぇ、シャナンちゃん。勇者がいるなんて知ってた?」


 この場で自分が勇者と名乗るのは得策ではないだろう。アチャンポンの質問にシャナンが首を振る。


「魔族が勇者を探しにきたのかよ……じゃ、じゃぁさ!勇者がアイツらをやっつけてくれるんじゃないのか?」

「ンゲマ、魔族の攻撃を見たでしょ!?街の壁を一撃で破壊する位なのよ。どんなに勇者様でも、あんな攻撃の前には勝てっこないわ!」

「ア、アチャンポン!そうだとしても、勇者なら何かしてくれるかもしれないじゃないか!」

「そ、そうね……私たちの救世主である勇者様なら、あるいは……」


 シャナンは二人に隠し事をしている気分に居た堪れなくなり、心がチクチクした気分になった。だが、自分の正体を明かすリスクを鑑みて、シャナンは知らない振りをする。


 二人の会話にシャナンがボソリと呟く。


「……勇者がいたとしても、あの攻撃には勝てないと思うわ……多分」


 自分の力量を省みて、シャナンは痛々しい顔を浮かべて言葉を発する。


「シャ、シャナンちゃん……でも……」


 アチャンポンが悲しそうな顔を向けてシャナンを見る。シャナンは、彼女の表情を見て、バツが悪そうに顔を逸らした。


 その時、また風に揺られて魔族の声が聞こえてきた。その声は、”勇者が黒髪で目が大きいGirlである“と言う特徴を示すものであった。街から遠いためなのか、声は少し擦れ、聞き取りづらい内容であった。


 しかし、声を聞いたンゲマとアチャンポンが、シャナンに顔を向ける。


「よく聞こえなかったけどさ……黒髪…の?」

「目が大きい……?」


 シャナンが下を向く。


「Girl……て、なんだ?」

「うーん……私も、それがよく分からなかったわ」


 シャナンが少しよろめいた。Girlという言葉が理解できなかったのだろう、二人は首を傾げている。だが、このままでは自分が勇者であると判明するのも時間の問題と感じたのか、シャナンは二人に声を掛ける。


「ふ、二人とも、勇者のことは置いておいて、街に戻ろうよ!」

「そ、そうね。ンゲマのお家も気になるし、とりあえず街に戻りましょう!」

「そうだな!父ちゃんや母ちゃん達も心配しているだろうしな、まずは街に戻ろうぜ!」


 三人は急いで街まで駆けて行った。


 ─

 ──

 ───


「Huuuu!すごいZe!このWeaponは!」


 六郎座は興奮冷めやらぬ顔をして、自軍の面々に言葉を投げ掛ける。


「閣下……潜り込んでいたブージュルクの連中から状況報告です」


 虫の姿をする魔物、"脳吸"アガリプトンが上気した顔を見せて六郎座に報告する。その顔を見て、六郎座も自分の興奮に気づいたのか、冷静に努めようとして、ドッカと椅子に座る。六郎座は深く息を吐き、アガリプトンの報告を促し始める。


「Oh!アガリプトンくん、報告したまえ」

「畏まりました………状況ですが、街の北端にある居住区では、扇動によって既に勇者狩りの人々が団結しているとのことです」

「Great!いいじゃない、Very Good!!」


 アガリプトンは六郎座の合いの手に気にせず、先を続けた。


「中央部にある商業地区では、街の崩壊で人々が混乱しているとのことです。この混乱に乗じて扇動すれば、勇者狩りに応じるだろう、とのことです」

「Ummm、そうなのかい?だが、いい傾向だ。勇者狩りに乗り出すのもTimeの問題だよね?」


 アガリプトンは“左様です”と軽く言葉を返す。


「最後に、街の南端は壁の崩壊から恐慌状態になっておるとのことですなぁ……ですが、この状況を利用してブージュルクの連中が扇動魔法を使って、怒りの矛先を勇者に向けたとのことです。皆、手に手に手に武器を持って、勇者探しに躍起になっておると報告されてます」


 アガリプトンの報告を聞き、六郎座は口を歪ませ、醜悪な笑みを浮かべる。


「Good、Good、Excellent!!カロイの街から勇者への怨嗟のvoiceが聞こえるようだ。ふふふふ、人間どもは自らの救世主を自らの判断で殺すのだ………見ものだな、これは………ふふふふふ」

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