赫騎兵(かくきへい)
「な、なんだとぉぉ!」
十三の目の前には赤々とした鎧をまとった赫騎兵(かくきへい)たちが、短弓に矢をつがえて二射目の構えを取っていた。その後方では同じく赤い鎧をまとい、カインが揚々と部隊の指揮を取っていた。
「まったく、キミが”十三“君だったんだな?魔族として、あんな計画立てちゃマズイんじゃないのか?」
「く、どこまで知っている!?」
「全部さ。この書類に書いてあることならばね」
カインが持つ書類の束を見て十三の顔がサーッと蒼ざめる。全てが露見したと理解してショックの色を隠せない十三を無視してカインは話を続ける。
「別に魔族と王国側で協定を結んでいる訳ではないので、この計画が良いとも悪いとも言えないが……魔族の中でも異端な発想だな。これが知れたら、キミはどうなるのかな?」
「テメェ、分かってて言ってるだろ!」
「さあな?魔族の掟なんざ俺にはトンと想像つかないな」
意地悪くカインが十三をからかう。十三は理解しているつもりだが、カインの売り言葉につい乗ってしまう。
「しらばっくれるなよ!」
事態の悪化による焦りと邪魔をされたことによる怒りで十三は冷静さを喪っている。怒声でカインの挑発に応じ、怒りに任せてズイと前に出て来る所作をカインは見逃さなかった。
「射て」
第二射が十三たちに放たれる。またしても矢が体に突き刺さり、全身に激痛が走る。しかし、体に着けた防具や自身の体力が高いためか致命傷とはなっていない。かと言って、そう何度も受けるわけにはいかないと十三は歯噛みする。
矢傷に耐え、荒い息で十三はサディに命じる。
「サディ!ガキを盾にしろ!」
「わ、わかった!」
サディはシャナンを盾にして前に出る。シャナンはジタバタと抵抗してサディの顔面に足を当てるが、サディは怯まない。サディの後ろに隠れ、十三がカインたちに大声で怒鳴る。
「テメェら!このガキがどうなってもいいのか!?今すぐ武器を下ろせ!」
シャナンを盾にされ、
「あのように言っていますが……どうしますか?隊長」
「構わん。
カインが命じると
カインが明言した通り、
「バ、バカな!幾ら何でも……まさか“スキル”の効果か?」
「気づいたか。第四射目……射て!」
第四の矢が更に自身の体を貫く。全身から血が流れ、目が霞んでくる。これ以上は必死だと十三は息も絶え絶えで魔法を唱える。
「せ、世界の理に……掛けて……」
「魔法を唱えさせるな!第五射目……!?」
「さ、させないよ!おりゃァァ!」
矢が放たれるよりも早くサディが両の手に持つ武器を勢いよく投げつけてきた。その威力の程は空を切る音だけで分かる。武器を避けるべく
その隙に十三の魔法が発動する。
「電磁障壁(マグネティックバリア)!」
「チッ……厄介な魔法を……」
カインが舌打ちする。アレンは少し困った顔をしてカインに尋ねる。
「如何致しましょう。
「言われなくても分かっているよ。まったく」
カインは深くため息を吐く。
十三が使用した
当然ながら、鉄の矢じりが付いた矢は磁力により進行ベクトルを変えてしまい、命中精度は激減する。言い換えれば、シャナンに矢が当たる可能性が大幅に増してしまったのである。
自身の持つ精密斉射の効果でシャナンを避けて魔族を射殺すつもりだったカインは作戦変更を余儀なくされて、再度ため息をついた。
「あの山羊頭の化け物相手に近接戦はしたくなかったが……仕方があるまい」
「幸いにも相手は武器を放り捨てています。今なら近接戦でも勝ち目はあるかと思います」
アレンが冷静に状況を分析する。カインは副長の言に頷き、新たな命令を号令する。
「
カインが魔族たちを囲み、逃げ道を防ごうと指揮を執る。
「じゅ、十三ちゃん!まずいよ!」
「く、くそ。血を流し過ぎた……体が思うように動けん」
「十三ちゃん!これ飲んで!」
サディが腰に掛けた袋から
「十三ちゃん!ここは俺が食い止める。早く逃げて!」
「な…サディ!何を言っている!」
「十三ちゃんは俺より怪我が酷いんだよ!正直に言うとこのままだと足手まといになっちゃうよ!」
普段とは違う物言いに一瞬ムッとするが、すぐに十三はただの強がりと判断する。
「それに荒事ならば俺の独擅場だ。大丈夫!すぐに切り抜けて追いつくよ!」
サディの思いを無にはできない。それに足手まといなのも本当だ。
十三はサディの肩から少女を受け取り、言葉を投げる。
「分かったぜ。絶対に追いついてこいよ!」
シャナンはンーンー唸るが相手にしてもらえない。このまま自分が連れ去られたらどうなるのか?本当にこの魔族と結婚させられるのかと不安になった。足をジタバタするが、強引に押さえつけられる。
「隊長!シャナン殿が!」
「逃がすか!追え!」
だが、その内の一人の襟首を掴み、サディが引き倒す。そして、倒した兵士を足から持ち上げ、腰の力を使って振り回した。
十三を追う兵士は振り回される兵士になぎ倒される。その光景を見てカインは呆れを顔に滲ませる。
「信じられん馬鹿力だな。普通、人を武器にするか?」
サディがヌンチャクの様に兵士を振り回す。振り回された方は意識が無いのかまったく抵抗する様子がない。
その隙に十三はカインたちとどんどん距離を離していく。カインは十三の後ろ姿に舌打ちし、この魔物に時間を掛けるワケにはいかないと考え、ズイと前に出る。
「おい。お前の相手は俺だ。時間がない。一気にケリをつける。悪く思うなよ」
カインの全身から湧き立つ気配から只者ではないとサディが感じる。もしかすると、こいつは十三の言っていた上位十クラスのどれかではないかと脂汗をかきながら想像する。
多分、自分は生きて帰れないだろう。サディは覚悟を決め、右手に持った
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