相手は子供

「じゅ、十三ちゃん……相手は子供だよ?」

「そ、それがどうした!」


 まずい。


 つい声が上ずって大きな声で返してしまったと十三は後悔する。これでは自分が子供相手に情欲を抱く変態と認めたようなものではないか。


「ち、違う!こ、このガキはとてつもないスキルを持っているようだからな!こいつとの間に産まれる子供は魔族にとって絶対役立つ!」

「そ、そうかもしれないけど……まだ子供だよ?」

「じゅ、十年くらい経てば立派な大人になるだろ!それまで待てば良いのだ!」


 言葉を紡ぐ程に自身の発言が言い訳めいて来て白白しくなる。サディも十三の言葉の真意を図ろうとしているのだろうが、突いた言葉は変態を責めるような言葉ばかりだった。


「と、とにかく!この場を逃げるだけだとしても、このガキならば好都合だ!大して力も無さそうだし、抵抗も……ん?痛て!」


 シャナンがもう一方の手で鞘ごと細身剣をぶつけて来た。


「は、放して!いや!いや!絶対いや!アンタなんかと結婚なんかしたくないもん!大嫌い!」


 その言葉は十三にとって少しショックだった。表には出さないが、十三はこの少女に恋慕の念を抱いていることは間違いない。間違い無いのだが、相手は年端もいかぬ少女だ。

 もし、ショックを受けた顔を見せると本当に変態と思われかねないため、本心とは裏腹に十三はワザと怖い顔をせざるを得なかった。


「ガキ……調子に乗るなよ?俺を怒らせると腕の一本や二本へし折ってやってもいいんだぞ!?」

「え……ご、ごめんなさい」


 この場は謝るべき状況ではない。だが、十三の言葉に恐怖を感じたシャナンは咄嗟に謝罪の言葉が出てしまった。

 対して十三は無駄に怖がらせてしまった自責の念に駆られてしまう。一方通行且つ歪んだ愛は双方に不幸な結果しか産まないと想起されてしまう。


 第三者のサディは二人のやりとりに少し呆れたかのような顔を見せる。サディの表情を見て、バツが悪くなった十三はコホンと咳払いをしてサディに命じた。


「サディ。こいつを縛れ。口には猿轡を噛ませろ」

「わ、わかったよ。でも。十三ちゃん、本当に連れて…」

「くどい!理由はさっき言っただろう!」


 強引に言葉で押し付けサディを従わせる。渋々サディはシャナンを縛り上げる。


「よし。では一旦アジトに戻り、書類を焼こう。その後で脱出だ」

「そ、そんな時間あるかな?」

「ふん。そのための人質だ。行くぞ!」


 サディが少女を肩に担ぎ、出発しようとした矢先に何やら飛来して二人にぶつかり弾け飛んだ。その物体は弾け飛ぶと同時に粉末状の物体を周りに撒き散らした。


「ぐっ…!こ、これは!?」

「め、目潰し!十三ちゃん、大丈夫!?」

「んーんーんー!」


 サディと十三が目から涙を流してその場に立ち尽くす。シャナンもその被害を受け目から涙が零れてきた。


「へ、へへ。このルディ様を舐めるなよ……」


 右腕がおかしな方向に曲がった男が足を引きずり近づいて来た。ルディである。


 ルディに命中した箇所が武器の柄であったため、致命傷は免れることはできた。しかし、腕と肋骨の数本が骨折しており、戦闘はほぼ不可能な状態だった。


 だが、足止めとしては十分だった。不意の攻撃を受けた十三が涙で視界を塞がれつつ、怒りから魔法を唱える。


「き、貴様!よくも!世界の理に掛けて……」


 しかし、一瞬早く別の魔法が十三に襲い掛かる。十三の足元に魔法触媒が投げ込まれ、赤々とした炎が立ち上った。


 火焔魔法──カタリナが得意とする魔法である。


 十三の周囲に捲き上る炎は大量の熱を放出した。その暑さに耐えきれず、十三は魔法の詠唱を止め、後方に下がる。


「ま、間に合いました……」

「貴様ら!!シャナンをどうするつもりだ!」


 トーマスとカタリナであった。カタリナは急いできたためか肩で息をしており、今にも倒れそうだ。対してトーマスは怒髪天を突くかの如く怒りの形相を見せている。


「く、くそ!せ、世界の理に掛けて……」

「させるか!」


 トーマスが十三に斬りかかる。だが、サディが肩に担いだシャナンを咄嗟に前に出し、トーマスの前進を止めた。


 トーマスが歯噛みして大声で怒鳴りつける。その隙に十三は異物除去(クリアランス)の魔法を唱える。


「き、貴様ら!卑怯だぞ!」

「……ふぅ、卑怯だと?知るか!人間の論理を俺たちに向けるな!」


 異物除去クリアランスで目に入った異物を除去し、やっとの事で十三は目を開ける。だが、十三の異物除去クリアランスのレベルでは、異物を完全に除去が出来ず、まだ目に痛みは残っていた。


 しかし、これだけ回復すれば十分だと十三は考える。


 を排除して書類を処分した後、逃げ果せれば、この少女は自分のものだ……十三は口の端に笑みを浮かべる。


 十三は傍で目を擦る仲間に声を掛け。


「サディ。やれるか?」

「うん。まだ少し目が痛いけど、十分だよ」


 目がボヤけていることが幸いした。あの酒癖が悪い二人をマトモに見る必要もなく始末ができる。十三とサディは臨戦態勢に入り、今にも襲い掛からんとしていた。


 だが、その二人に邪魔が入る。


「シャナンには当てるなよ?全軍、放て!」


 その声を合図に無数の矢が一直線に十三とサディに放たれた。その矢はシャナンを避けて魔族たちの体にめり込む。

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