シャナンの正体

「…隊長……ひどい……」


 シャナンたちが去った後、冒険者組合の休憩室でサラがジェガンにぼやいた。それもそのはず、ただでさえ、フォレストダンジョンの騒ぎで忙しい上に、新人冒険者のお守りという厄介ごとを押し付けられたからだ。


 サラは恨みがましくジェガンを睨みつける。


「悪かったよ。どうしてもシャナンを調査隊に参加させたかったからな」

「公私混同…」


 サラがジェガンを睨みつける。そこには非難の色が込められていた。


「ウッ……今度、酒おごってやるからよ。許してくれや」

「……さっきも聞いた……隊長…これで2軒目…おごり…」

「げ。まぁ仕方がねぇ」


 ジェガンがポリポリと頭を掻いている横で、サラが黒豆茶を飲みながら、頬杖をついて尋ねた。


「でも…隊長…なんであの子に肩入れするの…?」


 サラの疑問も最もである。シャナンのスキルと能力はレベルと歳を考えると異常である。だが、相対的に考えると、冒険者としてそこまで強い訳ではない。むしろ、調査隊に無理に参画させて死亡させてしまう方が損失は大きい。


「実はな……あの子は勇者かもしれねぇんだ」


 勇者……曰く人と異なる能力を持ち、尋常ならざるスキルで他を圧倒する異世界からの来訪者である。


 冒険者組合にも各国で勇者召喚が成功した噂はチラホラ入っていた。サラもその噂は耳にしていたため、ジェガンの力の入れ方が理解できた。



「……それは私も思った…あの年で……あのレベルで…あの能力は信じられない…」

「勇者ならこの調査で何かしら才能を開花するかもしれないからな」


 勇者の力は今回のような有事際に非常に役立つ。ジェガンもそれを見越して勇者であるシャナンとのつながりを持とうとしたのだろう。


 だが、シャナンの力は一人前には程遠い。今回の調査隊参画は無謀な挑戦になるのではないか。サラがすごく当然の質問をジェガンにぶつける。


「……死んじゃったらどうするの…?」

「お前がいるんだ。大丈夫だろ?」


 ジェガンが呑気に応える。


 そう簡単なものではない、とサラは思ったが、 久しぶりに嬉しそうなジェガンを見て黙っておいた。

 それに、久しぶりに力を開放して戦うのもストレス発散には悪くない、サラは残った黒豆茶を口に含ませ、そう思い直していた。

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