調査隊への参画条件
「しっかし、改めて見ると凄いスキルだな」
ルディが感想を述べる。通常のスキルはもっとシンプルである。しかし、発動条件が複雑なスキルほど高い効果を発揮し、戦況を一変する力がある。
しばし、ジェガンがシャナンのステータスを記載した紙を見て、言葉を発した。
「限定的な条件だが、お前たちを調査隊に加えてもいいぜ」
「限定的、ですか?」
「ああ、シャナン。お前の“明日への希望”は調査隊にとって非常に有効だ。お前が希望を失わない限り、お前たちを調査隊に加えてやってもいいぜ」
「本当?私も力になれるの?嬉しいわ」
「ちょ、ちょっとシャナン。あいては魔族なのよ!」
セシルが慌てて制止する。まだ低レベルなシャナンたちがもし魔族に出会ってしまったら、生きて帰れる保証はない。
「俺はいいと思うけどなぁ〜」
呑気なルディの言葉に苛立ちを感じ、セシルは強く反論する。
「ちょっとルディ!あなたまで何言ってるの!私たちはレベル10にもなってないのよ!もし本当に魔族がいたらどうするのよ」
「そのための”明日への希望“だろ?
「はぁ?“明日への希望”の効果が発動しても、私たちはせいぜいレベル20程度の力しかならないのよ!その程度だったら、魔族なんかの足元にも及ばないわ!」
発動条件が難しいスキルに頼るなど、自分の命を運に任せるようなものである。一時的とはいえ冒険者に身を置き、他のメンバーより経験があるセシルは猛然と反対する。
それに、一行の目的は冒険者で名を馳せることではない。魔王を倒すことなのだ。無理な冒険をして冒険者の名を上げる必要性は一つもない。
目的をきちんと理解しているのか、トーマスとカタリナは沈黙を守っている。だが、能天気なルディと少し舞い上がっているシャナンは理解できていなかった。
冷静なトーマスとカタリナを見て、セシルは熱くなった自分に気づき、腰に手を当て、嘆息しながら二人に語りかける。
「それに…シャナンがいつも“希望”になるとは限らないわ。戦闘中は状況によって精神状態が左右するわ。当てにするにはリスクが高すぎるの」
セシルの考えも最もだ。戦闘中、シャナンが“希望”を持ち続けるとは限らない。彼女が怯え、恐怖したら”明日への希望“は解除され、一気に形成は不利になる。
だが、セシルの力説に水を差すようにジェガンが割り込む。
「セシル…だったか。…あんたの言うことは最もだ。普通なら当てにするにはリスクが高すぎるスキルだ。だが、”普通“ならな」
「え…?普通…どう言う意味かしら?」
「今回の調査隊にはサラも付いてくる。こいつは精神状態を操る
「……隊長…初耳……」
「今言ったからな」
サラがジェガンにブーブーと不満を言う。
──
同じような魔法に
「でも…やはり私たちには荷が重いわ…魔族に出会ったら…到底生きて帰れると思えないわ」
セシルの不安は”明日への希望“の効果が切れることではない。そもそも自分たちの能力不足にある。それに気づかぬほどジェガンは鈍感ではない。
「気持ちは分からなくもねぇ。セシル。だが、もしこいつらのレベルが短期間で向上する見込みがあるならば、少しは考えるか?」
「……まあ、そうね…考えなくもないわ」
セシルが渋々答える。ジェガンは一種の賭けだな、と思いセシルに提案する。
「ここから南西にある古い砦にゴブリン族が住み着きやがったんだ。最初はホブゴブリンも居たみたいだが、追い出されちまったようだ。そのせいで歯止めが効かなくなった」
「ほう、ゴブリンですか…どこから流れてきたのやら…」
「どうもマムゴル帝国あたりから来たらしいんだ。あいつら、面倒な奴らは全てこっちによこしやがる」
「……何が言いたいのかしら?」
セシルが少々苛立ち紛れにジェガンの回りくどい話にくぎを刺す。ジェガンは人指し指をコメカミに当て、不敵に笑みを浮かべて返答する。
「悪い悪い、俺はどうも話が脱線する嫌いがある。よく、サラからも言われんだ」
「……隊長…また脱線…」
「わかってんよ!でな、調査隊の出発予定の十日後の間、お前らゴブリン退治も兼ねてレベル上げてきな。十日後、それでも調査隊に不適切だと思うなら……セシル、今回は無しだ」
レベルは生き物の魂を吸収して上昇する。ゴブリンのような人の形をした生命体は他の魔物よりレベルが上がりやすい傾向にある。一説には、魂の形が似ているため、吸収効率が高い、との話もあるが、定かではない。
セシルはしばし考えた後、嘆息して答える。
「フゥ……ジェガン。あなた、本当にシャナンを調査隊に入れたいみたいね。いいわ。十日間で私たちがどうなるか、それによって考えるわ」
「おう!それでこそ冒険者だぜ!ま、砦にはサラも行くから大丈夫だろ!」
「……え〜……」
サラが不愉快な表情で不満を口にした。
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