協力者

 翌日、シャナンたちはジェガンに呼ばれて冒険者組合を訪れた。使いの者の話では、討伐隊にはシャナンたち以外の冒険者も参画するとのことだった。集団戦であれば、それぞれの役目を予め決めておかないと予想外の出来事に対応はできなくなる。そのため、冒険者同士でどのようにゴブリン族を討伐するかについての話をしたいという次第になった。


「冒険者と連携ねぇ〜、大丈夫かしら?」

「セシルさん、何か気がかりなことでもあるのですか?」


 セシルの利いたような口ぶりに、カタリナが疑問を投げかける。


「えぇ。冒険者ってのは皆んな自分本位な奴らばかりなのよ。ガメツくて意地汚くて……昔からの知り合いならまだしも……私たちのような新人冒険者じゃぁ、舐められて、美味しいところを全部横取りされちゃうのがオチよ」


 その口ぶりには少し怒りの感情が含まれていた。


「で、でも、個々で攻め入って勝ち目があるのでしょうか…ゴブリン族は数十体と少なくありません。全員で連携して戦うのは理に適っていると思うのですが…」

「カタリナ、それは私たちが騎士団の一員だからよ。冒険者なんて、我が身可愛さの欲深な奴らばかりよ。私たちの様に連携して戦うなんてありはしないわ」


 貴族の娘らしからぬセシルの強い口調にカタリナはタジタジとなった。よほど冒険者時代に辛酸を舐めたのだろうか。セシルは他の冒険者に強い敵愾心を抱いていた。


 セシルの言葉を背中に受けていた他の三人は、冒険者組合に行く足取りが重くなった。


 五人が少し緊張した面持ちで冒険者組合の重い扉を開けると、幾人かの冒険者から強い視線を向けられる。その瞳には猜疑心と蔑みが混ざっている様に感じた。


「おう、シャナン。よく来たな」


 一行の不安をよそにジェガンが能天気にシャナンに手を挙げて挨拶した。ジェガンはシャナンたちが来てくれたこと自体が嬉しいのだろう。強面の顔に浮かべる笑顔はむしろ五人の不安を誘った。


「組合長……そいつらも参加するんですかい?」


 戦棍メイスを腰に掛けた男が話しかけて来た。彼の体には数多の傷が有り、駆け抜けた戦場の数を物語っていた。


「ああ、そうだ。まだ冒険者になって日が浅いが頼りになる奴らだぜ」

「まだ若造じゃねぇですか。…中にはガキも居やがる。コイツらが本当に頼りになるんですかい?」


 男のジロリとした視線が五人を射抜く。その瞳には疑いの色が濃く映っていた。


「ああ、そうだぜ。新人とは思えないくらいにな」

「ふーん……そうは見えませんがね…特にその子供。足手まといにならなきゃいいがな…俺たちゃ遊びで冒険者やってるんじゃないんでね」


 五人を小馬鹿にしたような男の態度にセシルとルディが腹を立てる。シャナンは何で自分がそんなことを言われなければいけないのか、悲しくなり、薄らと瞳に涙が浮かんでいた。


 だが、男には悪気はなかった。彼は、相手を思いやることができる男なのであった。


 男は長年の冒険者稼業で有望と期待された若者が無惨に命を散らした光景を幾度も見てきた。そのような若者が短命になる相場は決まっている。驕りや油断だ。


 男は敢えて不遜な態度を取り、血気に流行る若者に冷や水を浴びせかけたのだ。それが解っているのか、ジェガンは男に何も言わないのである。


 だが、セシルとルディには通じていない。ブーブーと男に文句を投げ掛ける。


「セシル、ルディ……少し静かにしていただけませんか」


 ピシャリとトーマスが二人を制す。不意に強い言葉を浴びた二人は黙るしかなかった。


 トーマスがツカツカと男の前に立ち、力強い視線で睨みつける。


「確かに私たちは若輩者です。しかし、だからといって遊びでゴブリン族を討伐しに行く訳ではありません」


 男もトーマスを睨みつける。二人の不穏な雰囲気に先ほどまで騒いでいたセシルとルディが息を呑んだ。


 睨み合いが暫し続いた後…トーマスが口を開いた。


「私たちがタダの“若造”かどうか、実戦でお確かめくださいッ」


 トーマス自身がバカにされたとしても彼はここまで感情を表さなかっただろう。だが、仲間たち、特にシャナンをコケにされたことで彼は怒っていた。トーマスは相手のために怒ることができるやさしき男なのである。


 男はトーマスの強い意思に少々面食らっていた。


 だが、一番驚いているのはシャナンを始めとした面々である。普段、冷静な彼からすると信じられない態度に皆が驚きを隠せなかった。男もトーマスの口調の力強さに考えを改めた。


「……へっ…俺の目が曇ってた様だな。悪かった。どうもな、お前たちのように若くて期待されている連中を見ると、調子に乗らないように悪態吐いちまうんだ」


 男の態度が急に軟化した。男は五人が今までの“期待の新人”とは違うと思ったのだろう。


「ああ、おい……お嬢ちゃん、泣かないでくれよ。本当に悪かったよ。ガキとか言ってすまなかった」


 シャナンは男の謝罪を受け入れ、目を指で拭い、笑顔で答える。


「…うん、いいよ。おじちゃん。許してあげる!」

「……その顔にはかなわねぇな……こんな嬢ちゃんをイジメちまったとは、俺はとんだ悪人だぜ…」


 男が頬を掻いて苦笑した。


「おーい、もういいか?作戦の話をするぞー」


 ジェガンが間に入り、話を遮る。先程までの険悪な雰囲気はどこかにとんでしまったかの様に全員が同じ思いを抱き、ジェガンの話に聞き入った。



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