砦のゴブリン族
シャナンたちは町の南西にある打ち捨てられた古い砦を訪れていた。ここに巣喰い旅人を襲うゴブリン族の討伐のためだ。
ゴブリン族は冒険者や旅人から奪った武器で武装し、籠城していた。彼らの武器は手入れをしておらず、所々にサビが浮き出ており、本来の性能を発揮できない有様であった。
ゴブリン族は砦に攻め入るシャナンたちに投石や弦が緩んだ弓で反抗する。それに対し、シャナンたちは準備していた矢立で身を隠しながら、砦に近づく。
「うぉ!危ねぇ!」
「矢立から離れるな、ルディ」
「これでは砦に近づけません。私の魔法ではあそこまで届きませんし…セシルさん、あなたの弓で何とかなりませんか?」
「任せて!」
セシルが弓を引き絞り、ゴブリンを狙う。”ヒュッ“と風を切る音がし、スリングを持ったゴブリンの喉を貫いた。セシルがガッツポーズを取る。
「うお、すげえな!あいつ、ほとんど防壁で体を隠していたのに…よく当たったな」
「へへーシャナンのスキルのお陰でいつもより調子がいいもの。今の私ならどんなマトでも外さないわ」
「うーん…私は特に何もしてないわ。でも、なんだか元気なのは分かるの」
実感がわかないシャナンは首をかしげる。
「ウキョアー!」
シャナンたちの後方から雄叫びが聞こえる。砦の隙間を抜けて来たのかゴブリンたちが後ろに回り込んでいた。ゴブリンたちは錆びた斧にショートソードを持ち、頭に鉄鍋を被り武装している。
嬌声をあげたのは習性なのか、奇襲のアドバンテージを失われたゴブリンたちが武器を振りかぶり攻撃して来た。
「……人…」
「じゃねぇ、シャナン!ゴブリンだ!オラァ」
ルディが前蹴りを繰り出し、シャナンからゴブリンを引き離す。シャナンは
─ゴブリン─
ゴブリンは魔物の類ではあるが、小さな人の姿をしている。もっとも、その顔は醜悪で悪意に満ちており、見る者によっては強い不快感を感じる。
ゴブリンは古い砦や洞窟、打ち捨てられた廃屋や遺跡に巣食い、人を襲うため忌み嫌われている。
なお、ゴブリンの中にはホブゴブリンと呼ばれる善良な種族もいる。ホブゴブリンはゴブリンと違い、大柄ではあるが、顔は少し温和な表情をしている。彼らは小さな集落を自前で持ち、人間との交易などもこなすという。
「シャナン……落ち着いて…精神が…乱れているわ…」
サラが優しく話しかける。シャナンは自分が取り乱しかけたと気づき、ギュッと頬を引き締めた。
─
──
───
シャナンたち一行がフォレストダンジョンでなく、古砦でゴブリン族と戦っているには理由がある。それは、冒険者組合の組合長─ジェガン─が提示したフォレストダンジョンの調査隊に参加する条件に由来していた。
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