第79話感謝……

 俺たちが教室に着くと、教室の中はある特定の人物を囲うような形で輪になっていた。

 いったい誰が囲まれているのかとその輪の中心を見てみると、花がすごいだのかっこいいだのと言われていた……。

 まああんなことがあったんだ。

 こうなっても別におかしくはない……。

 俺たちが輪の方を見ていると、その輪から一人の女子生徒が飛び出してきた。

 

「あ、美咲! どこ行ってたの? あんたのせいで私たちめっちゃ大変だったんだからね」


 輪の中から出てきた阿澄は、橋川と目が合うなりいきなり愚痴を言ってきた。

 だが本気で怒っているといった様子ではなく、むしろ心配していたという様子だ……。


「ごめんごめん。でもバンドの方は大成功だったし良かったじゃん」


「そんな他人事のように……」


 呆れかえっていた阿澄に、橋川があははと微笑していた。

 まあなんにせよ橋川が責められるようなことがなくて良かった……。

 正直そのことについても少し心配していたのだが、杞憂きゆうだったようだ……。

 というかいつの間にこの二人仲良くなったんだ……? 

 前は名字で呼び合ってたのに今は名前で呼んでるし……。

 まあ同じバンド仲間なのだから、その最中に仲良くなっても不思議なことじゃないか……。

 俺は空気を読むようにその場を離れて、隅っこの壁に寄りかかる。

 寄りかかりながらクラスの輪の中心にいる花の方を見ていると、一瞬目が合った。

 目が合うや否や、花はクラスメイト達の輪から抜け出してこちらに寄ってきた。


「ちょっといいかしら?」


 花はこっちに来るなり、俺の隣の空いたスペースの壁に寄りかかってきた。


「な、なんだよ……?」


 俺は内心ビクビクしながらそう聞いた。

 もしかしたら余計なお世話と言われたりするのかもしれない……。

 それとも勝手にバンドをやらせたことを怒られるかもしれない……。

 今から花になんて言われるのか俺は想像もつかなかった……。

 だが、花から言われた言葉は俺の想像していた悪いものではなく。


「あの……あなたにこんなことを言うのは大変屈辱くつじょくなのだけどその……ありがとう……」


 っと、小さな声で照れながらも花はそういった。

 花が素直にお礼の言葉を俺に送るなんて何事かと思ったが、そのぐらい今回のことに関しては感謝してるってことなのだろう……。


「まあ今回のことをやったのはほとんど橋川だからな……。お礼ならあいつに言ってやってくれ」


 俺がそう言うと花は微笑ほほえんで。


「ええ、分かってるわよ。あなたにこんな大それたことができるわけないもの」


 っと、余計な一言を口にはさんだ。

 そして花は、そのまま橋川たちの方へ体を向けてから。


「放課後に国語研究室に来てちょうだい……」


 そういって橋川たちの方へ向かって行った。

 

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