第78話彼女が協力してくれた理由……

 橋川の演奏が終わり、文化祭も幕を閉じた。

 俺達は今、教室に向かっている最中だ。


「いやーまあいろいろあったけどさ、私たちの当初の目的の矢木澤を助けるっていうことはできたんじゃない?」


 お気楽にそういう橋川だが、俺は今回のことをとても橋川に感謝している。

 彼女のアイディアと犠牲があったからこそ、今回のことは全て丸く収まった……。

 いくら感謝しても足りないぐらい、俺は橋川に感謝している。


「橋川……」


 俺は橋川を呼び止めて。


「本当に、今回のことはありがとう……」


 そういって深々と頭を下げた。

 

「ちょっとやめてよ、そんな大層なことしてないって」


「いや、お前がそう思ってなくても俺はすごく感謝してるんだよ……。それに俺はまた役に立てなかった……。また何もできなかった……。だから……橋川がいてくれて本当に良かったよ……」


 そういわれた橋川は、少し頬を赤くしていた。

 そして俺をはげますように。

 

「まあ優太が何も出来なかったってことはないんじゃない? もともと優太が私に声を掛けなかったら、私は協力してないわけだしさ」


「でも……」


「もうやめやめ、これ以上暗い雰囲気になるの禁止。矢木澤を助けることもできたし、私も別にバンドが出来なかったことは気にしてない! もうそれでいいじゃん」


 暗い雰囲気になるの察した橋川は、そう言って場をなごませてくれた。

 つくづく彼女には助けられてばかりだ……。

 そして俺たちはまた、教室に向かう廊下を歩きだす……。

 俺たちが自分たちの教室のある階に着くと、俺は橋川に聞きたかったことを思い出した。


「なぁ橋川、一つ聞いていいか?……」


「ん? なに?」


 きょとんと首を傾げた橋川に、俺は真剣な眼差しを向ける。


「何でお前はここまでしてくれたんだ?」


 そう聞くと橋川は、余計に首を傾げた。


「つまり、何で私が自分を犠牲にしてまで矢木澤に対する阿澄あすみの好感度を上げてやったのかってこと?」


「あぁ。そもそも俺に協力してくれたのも少し気になってたんだよ……。てっきりお前と花って仲悪いと思ってたからさ」


 いつぞやのグループディスカッションの時も、橋川と花は口論という名の喧嘩をしていたし、普段も全く喋っている姿を見かけないので、てっきり仲が悪いのだと思っていた……。

 しかしここまでしてくれるということは、案外二人はそこまで仲が悪くないのだろうか……?

 そんな俺の疑問に橋川は。


「まあ確かに良くはないよ。でもあたしはあいつのこと嫌いじゃないんだよね……」


 といった。


「なんで?」


 ふとそう疑問に思ったので、俺はとっさにそう聞くと……。


「いやぁ、前にあたしと矢木澤がグループディスカッションで口論したじゃん? その時に、この人かっこいいなって思ったんだよね……」


「は? どういうこと? お前あの時走って教室出てったじゃん」


「ちょっと、そのことはあんまり言わないでよ。今でもたまにあの時のこと思い出して恥ずかしくなる時あんだから……」


 その橋川の言葉を聞いて、ますます意味が分からなくなった……。

 

「いや、だったら尚更なおさら嫌いになるだろ……」

 

「まあ普通ならそうかもね……。でも私は違った……。ほら私ってちょっと怖いイメージあるらしいんだよね。だからあんまり仲良くない人と喋るときにさ、どこか遠慮して会話されてるって感じるんだよね……。でも矢木澤は私に本音で話してくれたから……」


 そういった橋川は、とても澄んだ目をして遠くを見つめていた。


「それにさ、優太と矢木澤ってちょっと似てるところあると思うんだよね。だから、私もここまでしてでも助けたいって思ったし」


「そうか?」


「うん、そうだよ」


 夕日に照らされる廊下の中で、俺と彼女はそんな他愛のない会話をしながら廊下を進んで行った。

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