第26話言い表せない感情

「続いて、一学年女子の全員リレーです。選手の方は自分の位置についてください」


 さっきの男子と同じように、女子も並び始める。

 女子が並び終えたのを見計らい、合図を出す先生が前に出てくる。


「それでは位置について……よーい……」


「ドン!」


 銃声と同時に、一走目の女子が走りだして行く。

 女子の走りを見ていて思うのが、男子より迫力に欠けるということだ。

 やはり男子と比べてしまうと、女子の走りは遅く感じてしまう。

 そんな中、矢木澤の出番が回ってこようとしていた。

 昨日は男子にも引けを取らない走りを見せた矢木澤に、クラスメイトの期待の眼差まなざしが向けられていた。

 矢木澤がバトンを貰った時の順位は一位だったので、もっと二位との距離を開けるのかと思ったが……。

 

「おぉっと、赤組対青組、どちらもいい勝負をして互いに一歩もゆずらない!」


 解説役の生徒が、矢木澤と青組の女子の対決を解説する。

 俺は矢木澤の走りを見て、昨日と様子が違うと感じた……。

 昨日の矢木澤の走りを見る限り、こんな接戦せっせんになんてならないはずだっと思った……。

 結果的に赤組は、男女両方とも一位という結果に終わった。


「矢木澤さん、手を抜いてても早いね!」


「さすがだね」


 クラスメイト達は、矢木澤の走りをみて、『手を抜いている』といっていたが、本当にそうだろうか?

 あいつが勝負ごとに手を抜くような奴じゃないので、俺は疑問に思った。 

 クラスメイトに囲まれている矢木澤は、険しい表情をしていた。

 やはり何かあるのだろうか?

 でも俺が矢木澤に何かしてやれるわけでもないので、何もしないでいようと思ったが……。

 何か嫌な感覚におそわれた……。

 言葉に言い表せないが、”もやもや”とした感覚が俺を襲う。

 そして、その”もやもや”は、どこか悲しい気持ちになる……。

 何故こんな感覚になるのか、皆目かいもく見当もつかない。

 俺が矢木澤にできることは何もないので、何もしないでほっておく。

 この選択に何か間違いがあるのだろうか?

 多分こんな感覚に襲われるということは、この選択は間違いなんだろう。

 でも、それでも俺にできることは何もないし、思いつかないので、この嫌な感覚がなくなるまで日陰で休むことにした。


「次のプログラムは、学年別選抜リレーです。選手の方は、速やかに移動してください」


 結局午後になってしまった……。

 あの後綱引きに出て、昼飯を食べたが、一向いっこうにこの感覚が消えることはなかった……。

 このもやもやして悲しい感情を、俺はどうすれば取り払えるのかずっと考えていたが、いまだに答えは見つからずにいた。

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