第27話彼の不安

 体育祭も終わりに近づいてきた。

 この学年別選抜リレーが、この体育祭最後の競技だ。

 この選抜リレーが一番得点が高く、この競技で逆転するというのも珍しくはない。

 得点版とくてんばんは隠されており、どこのクラスが何位かは分からないようにされている。

 選抜リレーに出る生徒が次々と走って並びに行く中に、矢木澤の姿もあった。

 やはり走り方がどこかぎこちない……。

 足を痛めているのだろうか?

 そういえば、今日はほとんど矢木澤の姿を見ていない……。

 もしかしたらずっと保健室で休んでいたのかもしれない。

 そんな矢木澤の状態などお構いなしに、選抜リレーが始まろうとしていた。

 俺は矢木澤がしっかり走れるのか心配になった。


「それでは早速、一学年女子の選抜リレーを始めます。選手の方は速やかに位置についてください」


 昨日と同じように、選抜リレーが始まろうとしている……。

 

「それでは位置について……」


 先生の合図とともに、生徒たちがクラウチングスタートの構えをとる……。


「よーい……」


「ドン!」


 いつも通りの合図とともに、女子達が一斉いっせいに走り出す。

 昨日と同じで、赤組はずっと最下位のままだった……。

 そうして、最下位のまま矢木澤にバトンが渡ろうとしていた。

 昨日はここで、矢木澤が前の二人を追い抜かして一位になったが……。


「おっとこれは、赤組と白組のいい勝負です!」


 解説が、今の状況を言っている。

 昨日は二位の白組をすぐさま抜いて、一位の青組をも抜き去った矢木澤だが、今は二位の白組すら抜かせないでいた……。

 

「矢木澤さんどうしたんだろ……」


「なんか走り方おかしくない?」


 クラスメイトの、不安そうな声が聞こえた……。

 そして……。


「パンパン!」


 矢木澤と白組の女子が接戦をしている間にも、先を走っていた青組の女子がゴールテープを切ってしまった……。

 そして矢木澤も、何とか白組の女子を抜かしてゴールしようとした瞬間……。

 ズサァっと足をもつれさせて、思いっきり転んだ。

 そして転んでる間に白組の女子はゴールしてしまい、赤組は最下位という順位になった……。

 矢木澤は近くの先生に何かを話した後に、保健室の方へ向かっていった。

 

「さあ皆さんお待ちかねの結果発表です!」


 正直待ってないから早くおわって欲しい。


「それでは早速行きましょう!」


 そうして得点版にかかっていた黒い布が取られた。

 得点版に出された点数は、青組254点、白組248点、赤組245点という、点数だった……。


「今回の体育祭の結果は、一位青組、二位白組、三位赤組という結果になりました!」


 まあ順位なんてどうでもいいが、最下位をとったのは驚いた……。

 途中までは一位だったので、悪くても二位とかだと思ったが、ギリギリで白組に負けてしまっていた。 

 他のクラスが喜んでいる中で、俺達赤組はとても静かだった……。

 すると担任が俺たちの前に出ていき。


「そんな落ち込んだ顔すんなよ! 次一位取ればいいじゃねぇか」


 担任は、俺達生徒を慰めてくれた。


「まあそうだよな、別にこれが最後ってわけじゃないし、次頑張ろう!」


 担任に続けて針谷が皆に声をかける……。

 そこで落ち込んでいた様子の生徒達も、表情がやわらかくなっていった……。

 短いようで長かった体育祭も終わり、俺も教室で着替えて早く帰ろうと思ったが……。

 この体育祭の結果を矢木澤に伝えようと思い、保健室に向かった。

 

「おーい矢木澤、体育祭の結果を言いに来たけど……」


 保健室に入ると、先生は何処にもいなく、矢木澤が一人で椅子に座っていた。


「大丈夫か?」


 矢木澤の膝には、かなり大きめの絆創膏ばんそうこうが貼られてあったが……。

 

「えぇ、大丈夫よ。ちょっと転んだだけだから……。それより何か用があるの?」


 矢木澤は平然とした様子だった……。

 まあこの様子なら大丈夫だろ。


「あぁ、体育祭の結果を言いに来たんだけど……」


「それなら大丈夫よ。ここからでも順位は聞こえてたから」


 まあ確かに、あんだけでかい声で言ってたら、そりゃここまでも聞こえるか……。


「そうか……。それじゃあ俺は戻るよ……」


 そうして保健室を後にする……。

 

 

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