第25話本番

 予行練習も終わり、いよいよ体育祭は本番を迎えようとしていた。

 

「さあ皆さん! いよいよ待ちに待った体育祭が始まろうとしています! 気合を入れていきましょー!」


 やけにテンションの高い実行委員の女子が、腕を上げて鼓舞する。

 そしてそれにつられるように、他の生徒も一斉に腕を上げる。

 

「おいお前ら! 気合入れていけよ!」


 中でもうちの担任の気合の入り方といったらすさまじかった……。

 

「それではプログラム一番、体操。皆さん、ぶつからないように広がってください」


 早速準備体操が始まった。

 さっきの女子とは別の男子が前に出ていき、見本となるように体操を始めた。

 

「いち、に、さん、し、ご、ろく、なな、はち」


 その掛け声に合わせて、俺達も体操をする。

 体操も終わり、いよいよ本格的な競技に移ろうとしていた。


「プログラム二番、玉入れ。選手の方は、すみやかに移動してください」


 はぁ……。

 俺は昨日と同じ状況になってしまった……。

 結局いつも通りに一人になってしまったので、仕方なくクラスとは別の方へ行く。

 そのついでに矢木澤を探している。

 別にあいつに用があるわけではないが、どうせあいつも一人だろうから話し相手になってもらおうと思った。

 しかし、昨日俺がいた白組のところには矢木澤はいなかった。

 まあ別にいなくてもいいか……。

 

「プログラム三番、一学年学年種目、全員リレー」

 

 数分一人でぼーとしていたら、いつの間にか玉入れが終わっていた。

 俺は赤組のところへ行くと……。


「なぁみんな、円陣くまないか?」


 クラスの中心人物の針谷がそう声をかけた。

 それにつられるようにして、他の生徒も。


「いいね」


「そっちの方が気合入るし!」


 なんていっていた……。

 どうして体育会体育会系の奴らってことあるごとに円陣組もうとするの?

 何故か強制参加のようなノリだったので、俺は仕方なく混ると。


「それじゃあ俺が右足を出したら、みんなも右足を出してくれ」


 そういって針谷は。


「勝つぞ!」

 

 という掛け声とともに右足を出し、そのあとに続いて他の生徒も。


「「「おー!」」」

 

 という掛け声とともに、右足を出していた。


「それでは位置についてください」


 各組の生徒達が、各々の場所に並ぶ……。

 一走目の生徒が各コースに着いたのを見計らって、合図を出す先生がピストルを頭上に上げ。


「位置について……よーい……」


「パン!」

 

 銃声とともに、各組の生徒が走り出す。


「赤組の子、バトン渡って来るから並んで!」


 先生が指示を出して生徒を位置に着かせる。

 今のところ、赤組は二位という何とも言えない順位だった。


「赤組来たよ!」


 そうして俺の番が来る。

 この緊張感が俺は嫌いだ。

 もし抜かされたらどうしようとか、転んだら何て言われるだろうとか、ネガティブなことを考えてしまう。

 俺は前の生徒からバトンを受け取ると、すぐに走り出す。

 二位で回ってきたが、わりと三位との距離が近かったので、抜かれたらどうしようと思っていたが、何とか二位のままバトンを渡すことが出来た。

 そしてアンカーの針谷にバトンが渡ると、前の青組の生徒を抜かして一位になってゴールした。


「おお! さすがしゅんだな!」


 針谷はゴールと同時に、クラスメイト達に囲まれていた……。


「くだらないわね」


「おぉびっくりした……。いたのか矢木澤」


 急に後ろから声をかけてきたのは矢木澤だった。


「いたとは失礼ね。私はあなたと違って影は薄くないわよ」


 今日初めて会った矢木澤は、いきなり俺に皮肉を言ってきた。

 てか何でコイツここいるの?

 俺は最初偶数の番号の場所にいたが、コースを半周走ったので、今は奇数の場所にいることになる。

 なので、偶数の矢木澤がここにいるのはおかしい。


「お前、自分の場所に行かなくていいのか?」


「そろそろ行くつもりよ。ちょっとあなたに皮肉を言いたい衝動にられたから、わざわざここまで来たのよ」


「わざわざご苦労様です。もう自分の位置に戻ってください……」


 俺は矢木澤の意味の分からない衝動のことは置いといて、自分の位置に戻るように言った。

 

「まあそろそろ始まるから、私は戻るわ」


 結局本当に皮肉だけ言って、矢木澤は戻っていった。

 『くだらない』か……。 

 矢木澤はそう言っていた。

 確かに彼女にとって、”集団で何かを成し遂げる”というものは、くだらない行為なのかもしれない。

 

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