第24話彼の気持ち

 時刻は午前12時。

 予行練習ということもあり、基本どの競技もすぐ終わってしまうので、次で最後だ……。


「次のプログラムは、学年別選抜リレーです」


 そのアナウンスにあったように、この体育祭の締めをかざるのは、選抜リレーだった。

 しかも、他の競技は予行練習だからと割愛かつあいしてたくせに、何故か選抜リレーだけ全員走ることになっている。

 まあ別に練習だし、本気で走らない人もいると思うけど。

 なんて思いながら、選抜リレーに出場する生徒が出てきた。

 まあ当然のごとく、矢木澤以外誰も分からないわけで、正直早く終わって欲しかった……。

 

「ではまず一学年女子からのスタートです」


 そうして合図を出す先生が、ピストルをかかげる。


「よーい」


 その言葉とともに、一走目の女子がクラウチングスタートの姿勢をとった。


「パン!」


 銃声とともに、並んでいた三人の女子が一斉に走り出す……。

 そしてニ走目、三走目とバトンがつながっていき、アンカーの矢木澤のもとへバトンが渡ろうとしていた。

 矢木澤がバトンを受け取るときには、最下位で渡ってきたので、一位との差がかなりあり、おい抜かすのは難しいと思った。

 だが矢木澤はバトンを貰うと、ものすごいスピードで少し前にいた白組の女子を抜かした。

 

「矢木澤さんはや!」


「すごーい」

 

 近くにいた女子や男子までもが、矢木澤に目を奪われていた……。

 そしてかなり先を走っていた青組の女子を抜かして、一位になっていた。


「すげーな」


 思わず声が出た。

 その走りをみて、やはり矢木澤は完璧超人だと思った。

 その後も他の学年や男子が走り終えて、選抜リレーは終わった。


「よ、随分ずいぶんと速かったな」


 俺は戻ってきた矢木澤に声をかける。


「それはそうよ、でもさすがに疲れたわ……」


「大丈夫か? そこに椅子あるから腰かけたらどうだ?」


 俺は疲れた矢木澤に気を使って、近くに置いてあった椅子を持ってくるが……。


「何急に? まさか今の私の走り姿を見てれたの? でも足が速いだけで相手に好意を持つのは小学生までよ? って、あなたの脳みそは幼稚園児以下だったわね」


「そこは小学生にしてくれよ……」


 気を使ったのにこの言われよう……。

 俺は手に持っている椅子を元の場所に戻し、教室に戻ろうとすると……。


「矢木澤さん、さっきの走りカッコよかったよ!」


「いやー今回の体育祭は矢木澤さんがいるから、優勝間違いなしだね!」


 わらわらと矢木澤の周りに人が集まって来る……。

 じゃあ俺は帰るか……。

 話しかけられてる矢木澤を後にして、教室に戻る。

 今日は帰りのホームルームは無しとのことなので、教室で着替えを終わらせて、帰る支度をする。

 別に今日は……というか、夏休みが明けてから一度も部活に行っていない。

 別に行かなくても矢木澤は何も言ってこないし、そもそも行く必要のない。

 そもそも何で俺は、あんな部活とも呼べないところに毎日のように顔を出していたんだ?

 そんなどうでもいいことを思いながら、教室を後にした。

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