第13話コミュニケーション

「てか珍しいな……」


「何がかしら?」


「いや、お前があんな感情的になるなんて」


 矢木澤があんなに取り乱すのは、なかなか珍しい。


「別に、橋川さんの発言が気にさわっただけよ……」


 多分橋川の、”友達を失ってもいい”という発言が、彼女の気に障ったのだろう。

 そういう発言をする奴は、そういう大切なものを失ったことがないから平気でああ言うことが言えるんだ。

 失った悲しさや虚無感きょうむかんは、失ったことのあるやつにしか理解できない。

 かくいう俺は、失うものがないので、そんな気持ちのなったことがない!

 いや、一度だけあったかもしれないな……。


「まあ七方美人のお前が喧嘩なんて、珍しいって思っただけだから気にしないでくれ」


「あら? それを言うなら八方美人じゃなくて?」


「何言ってんだ? お前、俺に全然気使ってないじゃん。俺にだけ優しくないし……」


「あなたが私の一方を取れると思ってるの? あまり調子に乗らないで頂戴」


 一方を取るってなんだ? 

 何の話をしていたか分からなくなった俺は、話を変える。


「てか毎度思うんだけど、俺たちってここでこうやって話してるだけだけど、何か活動しなくていいのかな?」


「忘れたの? ここはコミュニケーション同窓会よ? コミュニケーションを取ることが活動なのよ」


 そういえばそうだったな。


「まああなたは私に罵倒されてるだけだから、コミュニケーションをとってるとは言えないわね」


 確かに……。

 ここで毎回コイツに罵倒されたり暴言吐かれてるだけで、俺はコミュニケーションをとれてなかったのか!?


「じゃあ俺はコミュ部なのに、コミュニケーションをとっていなかったのか?」


「えぇ、私はあなたと会話しているつもりはなかったわよ?」


 そんな首を傾げながら言われても……。


「じゃあどういうのが”会話”なんだ?」


「知らないわよ。だいたい、友達もいないあなたが人とコミュニケーションをとれるわけないじゃない」


 あ、いつもの流れだ……。

 こうやって罵倒される流れを作るのがいけないのか?

 いやでも、コイツにどんなこと言ったって、そのすべてを暴言で返してくるからな……。

 むしろどうやったらコイツに暴言を言わせずに、まともな会話をすることが出来るだろうか?

 とりあえず適当に話しかけてみるか。


「今日の昼食の弁当、自分で作ったのか? 料理上手いな!」


 これならどうだ?

 相手を褒めることにより、暴言を言う隙を与えない。

 名付けて!

 褒めて会話するプライスコミュニケーション


「何急に? というか何で私がお弁当を持ってきたって知ってるの? 教室では食べていなかったけど? もしかしてストーカー? 気持ち悪いから私の半径一キロ以内に近づかないでくれるかしら?」


 なんてことだー!

 いつもの二倍近い暴言を吐かれたぞ!?

 俺もたまたま教室に居ずらかったから食堂で食べてて、たまたま見かけただけなのに……。

 

「もうヤダこの人……」


「いやなのはこっちよ。毎度毎度、次はどんな言葉であなたを罵倒しようって考える私の身にもなって頂戴」


 え、今俺怒られてる?

 罵倒するのをやめたら済むと思うんですが……。

 というか、無理にコミュニケーションをとる必要なんてないんじゃないだろうか?

 そもそもここ、同窓会だし……。

 そんなことを思いながら、俺は彼女とこの関係を続けていきたいと思った。

 

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