第8話自分と他人

 一週間。

 高校生活を始めて、一週間がたった。

 俺はいつも通りに渡り廊下を歩いて、国語研究室に向かおうとすると……。


「それで、話って何ですか?」


「そ、それは……」


 国語研究室の前で、矢木澤とクラスメイトの男子が話をしている。

 深刻な雰囲気だったので、近くで聞き耳を立てる。

 

「じ、実はさ……最初から見た時から、好きだったんだよね……。俺と付き合ってくれないかな?」


 クラスの男子が矢木澤に告白している。

 というかよく見たら、いつも休み時間俺の席によく座って矢木澤に話しかけてる、針谷君じゃありませんか。

 毎回邪魔なんだよ!

 心の中で愚痴をこぼす。

 そして、この告白の結果は、多分振られる……。

 

「ごめんなさい……。気持ちはありがたいのですが、わたしはあなたのことをよく知りませんし……」


「それじゃあこれから知っていけばいいよ! 俺もうクラスでは割と中心人物だし、俺と付き合えば矢木澤さんの株も上がるよ!」


 そう返答された矢木澤の顔は、とても相手を見下したような表情になっていた……。


「いえ、本当にごめんなさい……。それに私、他にやることがあるから付き合うとかそんな余裕ないんです……」


 そうして矢木澤は、教室に入っていく。

 針谷もそれ以上は追わずに、どこかへ行ってしまった。


「いいのか?」


「あら? 今の聞いてたの? 盗み聞きなんて趣味が悪いわね」


「相手はクラスの中心人物……付き合えばお前の株も上がるんだぞ?」


 さっき針谷が言っていたことを、矢木澤に言うと、酷く不機嫌になった。


「そういうの、本当に嫌いだわ……。なんで私が自分の評価を上げるために、わざわざあんな自己中心的な奴と付き合わなければいけなの……」


「でも嬉しくないのか? 他人から好かれるって……?」


「別に、いくら他人から好かれようとも何にも思わないわ……。他人は他人よ……」


 他人ね……。


「じゃあ誰からも好かれたくないのか?」


「別にそういうことじゃ……」


「でも他人から好かれても何にも思わないって言ったじゃねぇか……」


「他人とはまた――別の人よ……」


 他人とは別の人?

 

「なんだよそれ? 他人は他人だろ。読んで字のごとく他の人。自分以外のすべての人間を他人というなら、家族だって例外なく他人だろ。お前は家族からも好かれなくていいっていうのか?」


 何で俺はこんな話をしているんだ。

 多分針谷の言葉に、俺も怒りを感じたからだろう。

 そしてそのことを矢木澤に言うのは、”他人から好かれようとも何にも思わない”と言う言葉が、強がりに見えたからだ。


「なんかしらけちゃったわね。今日は解散にしましょう」


 そうして矢木澤は教室を出ていく。 

 俺もちょっとおかしかったな。

 何であんな話をしたのか……。

 矢木澤の過去を知っているからだ……。

 他人から好かれなくてもいいなんて虚勢を張って、強がっている彼女を見るのが、とてもつらいからだ……。

 そして、彼女がそうやって虚勢を張ってしまうのは、俺が原因だからだ……。

 

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