第7話彼と彼女の日常

 キーンコーンカーンコーンと、最後の授業が終わりチャイムが鳴る。


「おい矢木澤、一緒に行かないか……?」


「お断りさせていただきます。あなたと一緒に歩いたら、私たちが友達だと他の方に勘違いされるじゃないですか。少しは考えてものを言ってください」


 誘っただけで、この言われよう。

 俺はこの先、コイツの罵倒に耐えることが出来るだろうか。

 正直、コイツと一緒にこの先部活動をしていけるか、とても心配だ……。

 というかあれって部活なのか?

 先輩もいなければ、顧問すらいない。

 多分卒業した先輩が作ったまま、ほったらかしにされてるのだろう。

 まあそんなことどうでもいいか。

 俺は矢木澤が教室を出たのを見計らい、そのあとに教室を出る。

 ガラガラと扉を開けて、椅子に座る。


「なあ、この部活って部長とかいないよな? 部活というより同窓会だけど」


「そうね。先輩もいないようだし、私が部長になるのかしら?」


「それじゃあ俺は副部長か?」


 俺がそういうと、矢木澤は首をかしげる。


「何言ってるの? あなた程度の人間にそんな役職を与えるわけないじゃない。奴隷か召使めしつかい、選ばせてあげる」


 それは役職とは言わないと思うんですが……。

 

「普通に部員じゃダメなのか?」


「うん、だめよ。それじゃあ早速役に立ってもらうわ。私のどが渇いたから、下でお茶を買ってきてくれる? 奴隷さん」


 どうやら俺は奴隷に決定されたらしい。


「俺はいかないぞ? 人には人権があるから、そんなパシリのようなことは断らせてもらう!」


「何言ってるの? 人権って人にしかないのよ?」


「俺は人じゃないのか……」


「逆にあなた人だったの? 全身の毛を剃られたチンパンジーが、放し飼いされてるのだと思ってたわ」


 俺って今までそんな風に見られてたの!?

 結局俺は部長様にしたがって、自販機まで行きお茶を買った。

 戻ろうとすると、近くで話し声が聞こえた。

 普通に戻ろうと思ったが、その会話の中によく聞き覚えのあるやつの名前が上がったので、気になって聞き耳を立てる。


「でさー俺のクラスにいる矢木澤さん! 俺めっちゃタイプなんだよね。上品だし、でも授業中いつも寝てるところもなんか可愛いっていうかさ……」


「へー告るの?」


「おう、もし付き合えたらそのあとどうしよかなー」


 まじかよ……。

 確かに見てくれだけはいいかもしれないけど。

 そんな彼らの会話がずっと頭に残り続ける。


「もどったぞ」


「遅すぎだわ、ここから自販機までそう遠くないのにこの時間のかかりよう……。まああなたにしては早い方なのかしら」


 うん、コイツと付き合うとか有り得ん!

 俺は買ってきたお茶を矢木澤に渡す。


「お前って結構モテるのか?」


愚問ぐもんね。私がモテないわけないじゃない。こんなに可愛くて、人当たりがいいのよ? 逆に私のことを好きにならない男はホモね!」


 それだと俺もホモになっちゃうんですが……。

 

「まあ今日のところはこれぐらいで解散にするわ。明日もちゃんと来なさい」


 そういった彼女は、どこか楽しそうだった……。

 

「なんか楽しそうだな」


「えぇ、こうやってあなたを馬鹿にするのが、最近の私の趣味なの。あなたに暴言を吐いたり罵倒を浴びせたりすると、日頃のストレスが解消されるのよ」


 なんてひどい趣味なんだ……。

 俺のメンタルが壊れる前に止めなくては……。


「じゃあまたね! ミートバッグさん」


 そういって彼女は教室を出て行った……。

 てかミートバッグってなんだよ。

 何でサンドバッグみたいな感じで言ってんの?

 俺は彼女のストレス発散機になっているのかもしれない。

 いや……かもしれないじゃなくて、なっている。

 でも、そこまで悪い気はしなかった……。

 もしかして俺って本当にマゾだったのか?

 いや……多分俺も彼女とこうやって話しているこの環境が、結構気に入ってるのかもしれない……。

 

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