第4話彼は決して許されることはない

 ここから50分もかかるのか。

 家から学校まで50分という、果てしなく遠い道のり……。

 今まで5分ぐらいで登校していた、中学生活が懐かしい。

 往復100分というこれまた長い道のりである。

 しかも電車、自転車を使うという。

 

「金もかかるし、遠いいし……はぁ……」


 思わずため息が出る。

 

「あなた、さっきも言ったけどその臭い息を吐かないで頂戴ちょうだい。明日からマスクを持参じさんしようかしら……」


 下駄箱には先に帰ったはずの矢木澤がいた。


「なんだお前、まだいたのか?」


「いや、あなたと別れてからそこまでの時間は経ってないわよ? あなたの脳みそは時間も測れないの?」


 コイツ……。

 一回一回俺に暴言を吐かないと会話できないのか?


「まあそうだな、じゃあまた明日……」


「えぇ、無事に明日が来るといいわね」


 何それ怖い!

 そんな脅迫まがいの別れを告げられて、帰ろうとするも……。


「ちょっとあなた? いくら私が美人で性格がいいからって、何でそんな堂々とストーカーしてくるわけ?」


「いや俺の家もこっちだし! てか覚えてんだろ」


 コイツは昔、何度も俺の家に来たことがあるんだ。

 さすがに忘れてないよな……。


「……し……ない」


 矢木澤は小さい声でつぶやく。


「な、なんだよ?」


「知らないわよ、あなたの家もあなたのことも……。昔の私だと思って、私に接してこないで頂戴……」


 そういった矢木澤の顔は、どこか悲しそうだった……。

 確かに彼女にとって、”俺”という存在は、昔の黒歴史なのかもしれない。

 彼女がこういった態度になるのも、無理はない……。


「悪かったよ……」


 それ以上なんて言えばいいのか、分からなかった。


「……」


「……」

 

 沈黙が続く。

 でも、俺は過去の罪悪感からか、彼女に話しかけられないでいる。

 

「ガタンガタン……」


 無言で電車に乗る……。


「次は、小川ー小川。お降りの際は気を付けてお降りください」


 次の駅か……。

 矢木澤とは同じ電車に乗ったものの、車両は違う。

 もう降りてるだろうか、それともまだ乗っているのだろうか。

 もう少しだけ話たかった気持ちが残る。

 俺が車両から降りると。


「「あ……」」


 矢木澤がいた……。


「ちょっとあなた? いつまでついてくる気? ストーカーとして警察のお世話になりたくなかったら、首を吊るか線路で電車に轢かれなさい」


 それってどっちも死ねってことだよね!?


「いやいや、さっきも言ったけど俺も家こっちなんだよ!」


「まあいいわ、じゃあ今度こそ永遠にさようなら」

 

 うん……、なんか余計な単語が聞こえたけど気のせいだろう……。


「うん、じゃあな……」


 結局俺は彼女に罵倒されただけだった。

 もし、もう一度幼馴染としてやり直せるなら……どんなに幸福だろう……。

 柄にもなくそんなことを思う。

 

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