第37話:覚醒のセリーナ

セリーナの怒りの叫びが、聖王室の部屋を揺らす。カイゲンはソレに危険を感じすぐに防御魔法を展開する。しかし、ダメージは追わなかったものの、カイゲンは先程いた場所よりも数m飛ばされていた。


セリーナの叫びだけで、すでに聖王室には至るところにヒビが出来、セリーナの周りはクレーター状のようなヒビが出来ていた。それでも、巻き込まれないようにリーアを結界で包んでいるあたりは流石かもしれない。


「なっ……!?なんなのだ……!?お前は……!!?」


カイゲンはそう言うものの、一応は王として貴族の顔は何人か把握しているので、セリーナがリーアの妹である事は知っていたし、彼女が無属性魔法使いであるのも理解していた。

しかし、カイゲンが知るのはそこまでだった。カイゲンは自分がかつての力を取り戻したら、自分を脅かす存在が現る者などいないと思っていたし、それは事実でもあった。例え、セリーナが無属性持ちだったとしても……


カイゲンも、シグレの報告書に姉の匂いを嗅ぎ続ける変態な妹がいて、その妹が姉を溺愛していると書かれていたら、もっと他の手段をとっていたかもしれない。まぁ、どんな手段をとっても、セリーナがリーアから離れる事はないだろうが……


13年間「神聖香」の匂いを嗅いでおきながら、正気でいられる者などいるはずもないと思っていたのもあるだろう。その証拠として、かつての歴史がそれを物語っている。カイゲンとて、直に嗅いで狂わないようにする為に、「神聖香」を結界に包んで嗅いだのだから……


しかし、セリーナは違う。1番匂いがするリーアの魂は嗅いでないものの、リーアの1番強い匂いがする箇所を探しては余す事なく嗅ぎ続ける13年間を過ごしてきた。その結果どうなったのか……それを、カイゲンは知ることになる。



セリーナは一歩一歩悠然と歩いてカイゲンに近づいていく。セリーナが踏みしめる度に、床に小さなクレーターのようなヒビが出来る。カイゲンは恐怖のあまり強力な魔力弾を放つが……


バシュッン!!!!


その魔力弾はセリーナに当たる。普通の人ならこれで吹っ飛ばされ、よくて重症であるのだが……


「なっ……!?何ぃ……!!?」


セリーナは傷一つ負う事もなく、一歩一歩確実に迫ってきていた。カイゲンはすぐに何発もセリーナに向けて魔力弾を放つが、結果は全て同じだった。

しかも、何より恐ろしいのは、セリーナは迫ってくる魔力弾に対してなんの防御魔法も展開していないのだ。それなのに、無傷で立って歩いているのは普通にあり得ない。


「ならば……!?これならどうだ……!!!!」


カイゲンは巨大なセリーナを飲み込んでしまうような魔力弾をセリーナに向けて放つ。それは、カイゲン最大級の魔力弾だ。どんな強力な魔物ですら簡単に滅してしまうほどの……


しかし、やはりセリーナは動じるどころか、やはり防御魔法を一つも展開せずにその魔力弾を受ける。


ゴオォォォ〜ーーーーーーーーーーンッ!!!!


「フッハハハハハ〜ーーーーーーーー!!!流石にこれでは……はぁ……!!?」


カイゲンは勝利を確信し高笑いをあげたが、魔力弾による爆煙の中からゆっくりと歩みを進めるセリーナが出てきて、顎が砕けるんじゃないかと言うぐらい驚愕するカイゲン。しかも、やはり無傷な上に服一つ破けてすらいない。


「なっ……!?なぁ……!!?」


「もう終わりかしら?なら、次は私の番ね」


セリーナはそう言って、カイゲンまでの距離を一気に詰めて、カイゲンに向かって拳をふるった。

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