第8話:明鏡止姉香 後編

そう。セリーナには見えていた。セリーナの頭の中でリーアがチャイナドレスを着て


「セリーナ!今よ!」


と、言って強い香りを放ってるのをセリーナは見逃さなかった。セリーナはカッと目を見開き


「見えた……!そこ……!」


クロヒョウの連続の拳をするりと躱して、彼女の渾身の一撃をクロヒョウの鳩尾に叩き込んだ。


「ッ!?……かはぁ!!?」


クロヒョウはくぐもった呻き声を上げ、静かにその場に倒れた。


「クロヒョウ!?まさかクロヒョウが負けるなんて!!?」


「残念ね。こんな奴に雇われずに、立派に身体を鍛えて、綺麗なお姉さんの匂いを追い求めていたら、貴方は立派な武術家になれたろうに……」


セリーナは倒れたクロヒョウにそう声をかけた。恐らく、彼女の前世の名もなき親友がこの場にいたらこう言っただろう。


「いや、それは立派な変態だ」


と……しかし、この場にそれを言う者はおらず、ハンジョーもクロヒョウが敗れて怯えきってる為、ツッコミ役が不在の状態である。


「さぁ、次は貴方よ……」


「ひいぃぃ……!!?」


ハンジョーはここにきてこの場に留まったのを後悔した。しかし、時すでに遅しである。それでも、部下に命じて時間を稼ごうとしたが……


「無駄な事を……」


1番の脅威であったクロヒョウがいなくなれば、今の明鏡止姉香の境地に至っているセリーナにとっては、数人の部下など有象無象の輩に過ぎない。現に彼女は素早い動きで人差し指で突くだけで、ハンジョーの部下達を全員倒してしまった。


「んなぁ……!?ま……!?待つネ……!!?彼女は返す……!?返すから……!?どうか私だけでも見逃して……!!?」


「貴方はバカなの?そんなの……当たり前でしょ」


そう。セリーナにとってリーアを無事に取り戻すのは決定事項である。故に、リーアを攫った奴に情けをかける理由なんて一つもないのである。


「くらいなさい……!」


セリーナはかなり高くジャンプし、そして、ハンジョーの顔面めがけて蹴りをくらわした。


「ぐぼはあぁ〜ーーーーーーーーーー!!?」


ハンジョーはセリーナの強烈なジャンプキックを食らって吹っ飛び、近くの大木に激突し気絶。ちなみに激突された大木も倒れたのは言うまでもない。もちろん。その際、ハンジョーが抱えていたリーアを結界に包んで巻き込まれないようにアフターケアもバッチリ行っている。


ここより遥かに離れた国、ウィンドガル王国の初代国王アイリーンは言った「良くも悪くも魔法は想いの力である」と、想いの力が魔法をより強くすると……

そんな世界でもし、「こんな綺麗なお姉さんはこんないい匂いがするんだろうなぁ〜……グヘヘへぇ〜……!」と常日頃から想いを馳せていた少女がこの世界に転生したら……?更に、自分の想い描いた物を魔法という形に出来てしまう無属性の力を手に入れてしまったら……?それが、この結果である。


だが、彼女はその事をまだよく分かっていない。いや、分からない方がいいのかもしれない。色んな意味で……


こうして、1人の侯爵令嬢の活躍により、極悪商人ショウ=バイ=ハンジョーの一味は逮捕された。そして、そんなお手柄をあげた侯爵令嬢は……


「……お姉様の服……返さなきゃ……でも……せめて後もうひと嗅ぎ……いや……でも……」


1人リーアの服を抱えて悶々とし、それを結局メイドのシグレに発見されてしまいし、泣く泣くシグレに服を手渡したのだった……

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