カナ、明日君をパン屋へ連れて行こう

 ざわ ざわ


 県立 わに此葉こは高校。自由な校風と信頼ある進学実績で有名な高校である。


 そしてここには、あるお嬢様がいる。


 株式会社カナコーポレーションの会長の愛しい孫娘、カナである。ちなみに会社名は当然、このカナの名前が由来である。


 自分の孫娘の名前を会社名にしてしまうところからも分かるように、会長はカナに超甘い。そのためカナは結構、金の力を使いまくっては自由奔放に振る舞う。


「カナってさ、札束を浴槽に浮かべてるらしいぜ」


「マジ本物の金持ちだよな、羨ましいもんだ」


「しかも最近は山を買ったんだってさ。景色がいいとかの理由でその場で即刻購入。経済力もそうだけど行動力もすごいよなあ」


「そんな金持ちがなんでこんな学校に来てるんだよ、私立でいいじゃないか」


「庶民をバカにしに来たのか?」


 ざわ ざわ


 生徒の中では色々と話題になりやすい人である。


「庶民をバカにはしてそうだよな、時代が時代ならマリーアントワネットみたいなことを言うんじゃないか?」


「ああ、あれか。『パンがないなら……」


 サッ


 その瞬間、二人の方へレッドカーペットが敷かれた。


 とん、とん、とハイヒールの音が響く。


「わたくし、その言葉の続きを知ってますわよ。一般教養ですわよね? 執事?」


「当然でございます」


 彼ら二人の前に現れたのは、オーラある一人の女性とタキシード姿の執事一人。


「あ……あ……カナさん……!」


「ほらほら、震えてないで続きを教えてくださいませ。パンがないなら……なんですの? わたくしも答えを知ってますが、念のために答え合わせをしたいですわ」


「え……あ、その……」


「どうやらお嬢様。お嬢様のあまりのオーラで呂律が回らないようです」


「あら、それは残念。ならわたくしから言わせてもらいますわ。『パンがないなら……



 作ればいいじゃない!!』」


「えっ?」


「その通りでございます、お嬢様」


「ならやることは一つしかないですわね! 執事、世界でトップクラスのパンを作るわよ!」


「今、お車を用意します」


 こうして、カナのパン職人への道が始まったのであった。






 § § §






「ここが日本で一番と言われているパン職人が経営する店でございます」


「ここで弟子に入って学べば、少なくとも日本ではトップクラスになるというわけですね!」


「その通りでございます」


「なら早速弟子に入れてもらいましょう」


 ガチャリ


「頼もうっ!」


「……道場破りか?」


「違いますわ! 弟子にしてもらいたいのです!」


「弟子ぃ?」


「ええ」


「……悪いが断る」


「なんでですの?」


「俺は弟子をとらない主義だ」


「お金なら積みますわよ?」


「そういう問題じゃない。俺は誰にもこの味を教えるつもりはない」


「……」


「だから悪いが帰ってくれ。お客さん以外立ち入り禁止だ!」


「……そう」


「分かってくれたなら帰ってくれ」


「……ええ、分かりましたわ。帰らせてもらいます」


「じゃあな、わざわざこんなところまですまないね」


 ガチャリ


「やれやれ、弟子になりたいってやつがしょっちゅう来て困る。でも無事今回も追い払うことに成功して……ん? 今日は?」






 § § §






「執事、明日もあそこに行くわよ」


「なるほど。通いつめて根性勝負、ということですね」


「分かればよろしい。さてさて、腕がなるわね。わたくしと彼……心が折れるのはどっちが先でしょうね、実に面白いですわ」


 カナ、経済力と行動力を兼ね備えてる女。


 今回はパン職人に弟子入りしたいらしい。さてさてこれからどうなるのか……! カナの物語は始まったばかりである!


 続く!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すれ違っても優しい街 またたび @Ryuto52

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ