第18話 求めよさらば与えられん
「本当か?」
思わず、声がでかくなった。
「びっくりしたじゃない。うるさいよ」
節子が耳を塞ぐ仕種をしたので、すまんと謝っておく。
「つまりだ。中さえ一緒なら、外から見た家の形が違っていても、節子が気付かない可能性が高いってことか」
「そうなる」
分かった気がした。アジトを複数持っていたとして、節子が常に目隠し状態で出入りさせられていたのなら、同じ一箇所だと思っても不思議じゃない。
犯人連中は何のためにそんな金の掛かる真似を? 警察が動き出したときの対策か。複数の隠れ場所があれば潜伏が容易になるし、こうして節子に逃げられたとしても、この子の証言からは簡単にはアジトの場所が特定できない。
用意周到さと資金の豊富さ、長期を見据えた計画といった要素から見えてくるのは、想像以上に大きな組織なのではないかという予感。
ただ、その割にやって来た犯罪は、脅迫や詐欺がメインのようだ。大人数の組織なら、電話を用いた特殊詐欺の方が、効率よく“稼げる”んじゃないだろうか。
まあ、犯罪者が常に最善の選択をするとは限らんか。これまで最善の道を選んできたなら、犯罪者になってはいまい。
それともう一つ、これまでの経験から学んだ。節子から情報を得ようとするのだったら、より深く、根掘り葉掘り聞き出そうとするのが肝心だと。こっちは大人の常識が頭にあって、質問に関して何らかの特殊事情があれば自主的に説明してくれるだろう、と思い込んでいた。だが、相手は小学生ぐらいの年齢で、しかも正式な教育は受けていない。節子は賢い面も見られるけれども、聞かれたことにだけ答える場合が多いようだ。あとから付け足しで教えてくれるのならいいのだが、そうでないこともあるだろう。こちらが根気を持って、辛抱強く聞かねばなるまい。
ただ……これが行き過ぎると、子供はときに、大人に対していい顔を見せようとする場合がなきにしもあらずってことを知っている。大人から期待されている答になるよう、嘘をつくってやつだ。実際に体験した訳ではないが、警察にいた頃、同僚が小さな子供に対する親族による傷害容疑を扱ったことがあって、子供の証言に振り回されたらしい。危うく、誤認逮捕するところだったと冷や汗を拭っていた。
「時間を取ってしまったな。とにもかくにも、北西に向かってみるか」
紙の地図上で大まかな道順を決めると、車をスタートさせた。
以前、節子が言っていたのは五分足らずだった。今日の俺は初めての道で、ややゆっくりめの走行だったから、とりあえず五分ぴったり走った地点で、停めてみることに。ただ、そこは住宅街に入ろうかという交差点脇だったので、一時停止する訳にいかない。少しだけ進んで、コンビニエンスストアの駐車場に車を入れさせてもらった。
「このコンビニは、利用した覚えはないか」
「ない。コンビニなんて、そういうのがあるって知っていたけれど、使ったことはまだ一度もない」
そうなのか。じゃあ、経験できるよう、欲しがっていたパンはコンビニで買うとしよう。が、今はまだ調査が先だ。
「家並みも見覚えはないんだよな」
「うん……」
「何かないか。音とか匂いとかでもいい。時間帯は違うだろうけど」
「音……ピアノの音が聞こえたことがあったけれども、一度きりだったなあ。匂いは……花の匂い。クチナシの花だと思うんだけど、自信ない。亀山先生が嘘を教えたかもしれないし」
続く
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