第17話 北西に進路を取れ!

 ここに来たのは初めてだから正確な東西南北は知らないが、太陽の位置から推して、だいたい北西か。

 駐車場の出入り口は複数箇所あるが、そのどれとも合致しない。

 素直に考えて、道順を確かめようとする人間が最後に見るのは、目的地のある方角……とは限らないが、目的地がそこそこ近いのであれば、当てはまる法則だと思う。

「よし、よく思い出してくれた。取っ掛かりができた」

「役に立ちそう?」

「ああ。北西方向からまずは当たってみよう。北西に進路を取れ!だな」

「北西に進路を取れって何?」

 知らないか。映画の題名をもじっただけだ。説明が面倒なので、後回しにする。

 すぐさまレンタカーで北西方面に向かうとしよう。断るまでもないが、北西へ北西へと直進できるはずもない。なので、カーナビ頼みのルート取りになるのだが。

「肝心なことを忘れるところだった。おまえさんと初めて会った公園が、ここだ」

 画面をスライドさせ、目当てのポイントを指差す。現在地から四十キロほど離れているようだ。

「あそこには歩いてきたんだよな? どのくらい歩いたか覚えてないか」

「……ずっと歩き通してたんじゃないから、分からないよ。犯人達に見付からないよう、隠れながら移動したし、暗くなってからは方向もよく分からないし」

「アジトを出たときは、もうすでに暗くなっていたのか」

「ううん。昼間だった。正確には分からないけど、半日ぐらい経ってたんじゃないかなって、言わなかったっけ」

 そうだそうだ、言っていた。ただ、午前十時頃から小学生ぐらいの子供が外をうろうろしていたら、人目に付く。それなのに騒ぎになった様子がないのは、実際には昼を過ぎていたからではないだろうか。午後なら、小学生は授業が昼までだったんだなと思ってもらえる。

 だから、ざっと見積もって十時間あったとして、子供の足で時速何キロだ、いや、休みながらだともっと遅いから……。

 何かおかしい。

 このスーパーから数キロ北西に行った場所にアジトがあるとして、そこから昨日の公園まで、大人の足でも歩いて十時間ぐらい掛かるんじゃないか? 子供の足で、休み休み行くとしたら、辿り着けない気がする。

「節子。念のために聞くが、アジトを脱出したのは、昨日のことなんだよな。一昨日ではない?」

「もちろんだよ。昨日の夜から寝すぎて、二十四時間無駄にしたとかじゃない限り」

「そうか。疑って悪かった。うー、てことは」

 考えられる可能性は……あまりない。

「犯人連中はアジトを二箇所持っていたってことはないか?」

 これぐらいしか思い付かなかった。

「一緒の家に見えたけど」

「マンションやアパートじゃないんだよな」

「うん。一つの家だった」

「そうか……」

 マンションやアパートなら、似たような外観、似たような間取りのところを用意するのは比較的簡単だろう。しかし、一軒家ともなると、そうもいくまい。たとえぱっと見が似ていても、家の向きに違和感を覚えるものだと思うし、近所の家までそっくり同じにする訳にはいかないだろう。

 尤も、同じ戸建てばかりの分譲住宅地なら、まだ可能性はあるか。その線を当たってみるかなと、紙製の地図を取り出そうとしたそのとき、節子がつぶやくようにぽつりと言った。

「ただ、家に出入りするときは、たいてい目隠しをされた状態だったから、家の見た目なんかについてはほとんど分からないよ」



 続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る