第15話 地味で地道な

 移動手段をどうするか多少迷ったが、レンタカーを使うことにした。

 半径1.5キロの線上を回るだけでも結構な距離だし、実際にはその内側及び外側に捜索範囲を広げねばらないのは必定。俺単独ならともかく、小学生ぐらいの子供の足では負担が大きい。

 鉄道で最寄り駅まで移動して、車を借りてから、真っ先に目指すのはスーパーマーケットだ。節子と節子に同行していた大人達を、店の者が目撃しているだろうから、その証言を得ることがメインの目的になる。どちらの方向から来ていたかが分かれば大助かりなのだが、そこまでの幸運は期待しない。

 調査を手っ取り早く済ませるために、探偵だと名乗ってからにしようか。

 くだんの店は、食料品以外にも日用品や服、家電なんかも多少置いてある中規模の店だった。駐車場は店のサイズに釣り合わないほど広く、このスペースがもしも満車状態になるとしたら、スーパー内は大混雑で身動き取れないんじゃないか。

 いや、そんなことよりも。俺は駐車場のなるべく店に近いところに車を停めると、上を見た。防犯カメラはあるようだが、一個人がこういう事情だからチェックしたいと申し出ても、見せてくれるとは思えない。気になるのは、この規模の店にしては、カメラの台数が少ないように感じた。もしかすると、だからこそ犯人の一味はこの店を利用していたのかもしれない。まあ、店内の防犯カメラは万引きなどの犯罪対策でたくさん設けられているだろう。警察が動いたときには、かなり期待できる。

「顔馴染みの店員なんて、いないよな?」

「うん、いない。スーパーの中で他人と喋った記憶、ほとんどないや」

「だと思った。じゃ、犯人連中が声を掛けた店員も?」

「いなかった」

「となると、やっぱりおまえさんを見てもらうしかないか」

 スーパーマーケットは今日の営業を始めたばかりで、客はまばらのようだ。これなら応対してくれるだろうか。

「お忙しいところをすみません。ちょっとよろしいですか」

 中に入り、野菜コーナー担当と思しき女性をつかまえた。

「はい?」

 怪訝そうな顔付きで振り返った彼女の名字は、大西おおにし。胸に名前入りのプレートを付けている。見たところ三十代半ばで、主婦のパートといった風情だ。

「何でしょうか」

「この子が迷子になったとき、こちらのお客さんに親切にしてもらったらしくて。お礼をしようにも、この子、相手の名前も連絡先も聞かなかったんですよ」

「はあ」

「今度引っ越すことになったので、その前に見付けてお礼を伝えておきたいと言い出したものですから、こちらに来れば何か手掛かりがあるかもしれないと思って」

「そういう話は案内カウンターか、裏手の事務所がいいと思います。連絡を取りましょうか」

「あ、お願いします。でもその前に、似顔絵を見ていただきたいのです。少しの間だけでも」

「――分かりました」

 お、うまく行った。開店から間もない時間帯で、忙しい可能性が高いと踏んでいたが、そうでもないようだ。店を開けるまでに基本的な準備は済んでいたんだろう。

 俺は今朝方描いたばかりの似顔絵三枚を見てもらった。似ていないタナカについては、後々混乱を来す元になるかもしれないので省いておく。

「どうでしょうか」


 続く

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