第14話 合法ブロック
「割とうまいね」
四人も似顔絵を描くのは時間が掛かった。疲労困憊した俺に、節子の評価は結構嬉しかった。
「再確認だ。この髪の毛つんつんで細目の奴がオオタ。七三で顔は馬面なのに小太りが先生役の亀山。唯一人の女・リズはウェーブの掛かったパーマに長いまつげ。タナカは短い髪に四角い顔だが、あんまり覚えていないと」
「うん。ごめんね、タナカだけはっきりとは思い出せなくて」
「いいんだ。無理に思い出そうとしたって、間違える可能性が高い」
それに、思い出すのが恐怖に結び付いているのではないだろうか。節子が思い出せないのは、恐らく遺体を見たせいなんじゃないかという推測が成り立つ。
四人の似顔絵を写真に撮り、そのデータを藍染に送った。各人に関する解説付きだ。何をしてくれと指示しなくても分かると思う。多忙で手が回らないことの方が懸念される。
「さて次は」
手帳を繰って該当ページを見つけ出す。節子が持っていたレシートの中身を書き写したものだ。もちろん実物も所持しているが、無駄に出し入れすると紛失する危険がある。大事な証拠になるかもしれないのだから、リスクはなるべく減らさねば。
「昨日、しかとは聞かなかったが、この買い物には、節子が一人で行ったのか? それとも犯人の誰かが店まで着いてきたのか」
「着いてきた。ええっと、このレシートの買い物のときはリズだったかなあ」
やはりそうか。一人で買いに行かせる訳がない。レジで支払いを一人でさせたという意味だろう。
「どうやって店まで来て、リズはずっと着いてきたのかな」
「店までは車に乗せられて。店の中では、リズがずっと一緒だった」
防犯カメラにその姿が捉えられているかもしれない。
「これからそこへ行くつもりなんだが、連中のアジトから近いと言ってたよな」
「うん。歩いて行ける範囲だけど、帰りは荷物が重たいから車だったんだよ、きっと」
徒歩だと、おまえに逃げられる可能性が高まるのも大きな理由だろうなと思った。思っただけで、わざわざ声に出すことじゃない。
「犯人連中と住んでいた家の場所は分かるか。地図を描ければ一番いいんだが」
「車に乗ってる間は、後ろの座席で、窓には黒いシールみたいなのが貼られてたんだ。だから、細かいことは分からない。ただ、車で五分も掛からない距離だった」
「そうだったか」
犯人連中は誘拐した子を乗せていたんだから、基本的な交通ルールはもちろん、制限速度もなるべく守ろうとするだろう。時速四十キロで移動したとして、五分足らず……約三キロか。話を聞いて最初にイメージしたよりは、離れている。
だが、実際にはもっと近いのだろう。五分間、ずっと時速四十キロで走行できる訳はあるまい。赤信号で停まることもあるはずだから、恐らく半分。最大で一キロ半といったところではないか。
「もう一つだけ、聞いておこう。と言っても、おまえさんに聞いてもしょうがないかもしれんが」
「何?」
「アジトの近くに姿を見せるのは、危ないと思うか」
「どうなんだろう……分かんない。普通ならもう逃げちゃってるよね、犯人達」
逃げただけならまだまし。俺が危惧するのは、連中が仲間の死体をどこかに運ぶなり何なりして、殺人の痕跡を消し去ってしまった可能性だ。犯罪計画の性格が長期的である点から推して、組織としてそれなりの規模を有しており、遺体を始末する“専門業者”とつながりがあったりしたら……頭が痛くなってきた。何も掴んでいない内から、悪い方向ばかりに想像を広げても仕方がない。
「よし、行くとするか」
虎穴に入らずんば――いや、違うな。そこまで危険じゃない。当たって砕けろ、ぐらいが適切だろう。
続く
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