第12話 初めて見る

 食べ終わったところで切り出した。

「昨日の服だが、検査に必要だから借りるぞ」

「いいよ。着替えあったし」

「あと、血液型って分かるか?」

「血液型? ううん、何それ。血の型ってこと?」

「そうか、まだ習ってないか。分かった。それから……似顔絵は電車の中でできるかもしれないな。ようし、出発の準備だ」

 知らない人の目からすれば、親子で遠足のように見えることを期待して、俺もせいぜい若作りをした。


 元は警察だったとは言え、今は一般人と変わりがない。

 だから心境を吐露するなら、明るい内から節子を連れて外を出歩くのは、びくびくものだった。まさかそんなことはあるまいと分かっていても、「あんた、その子供をどうした? 病院からさらってきたんじゃないのか?」ってな具合に、制服警官に呼び止められる場面を想像してしまう。

 実際には何事もなく、駅まで辿り着けた。駅前の交番のすぐ前も通ったが、もちろん何もなかった。

 この鉄道はかつてよく利用していた路線だから、専用のカードを持っていた。だが、今使えるほどチャージしたかどうか記憶があやふやだし、カードそのものが財布に入っているかどうかすら怪しい。結局、券売機で目的地までの切符を買った。

 節子は、そんな俺の様子を珍しそうに見ていた。

「電車、初めてか」

「乗ったことはある。買うところを間近で見るの、初めてだったから」

 どうやら犯人一味はカード派だったらしい。いや、切符を先に購入していただけかもしれないが。

 それよりも、重要な情報かもしれない事柄が頭に浮かんだ。改札を通ってプラットフォームに出る道すがら、問い質す。

「どこの電車に乗ったのか覚えていたら、教えてくれないか」

「うーん……結構乗ってたんだけど、駅の名前は分からない。字、読めなかったし」

 だろうな。

「でも、最近のなら分かる。川崎と横浜、それから埼玉だった」

「おっ。それはJRか私鉄か?」

「JR? 分かんないよ」

「電車の色はどうだった?」

 俺も詳しくはないが、鉄道各社のカラーというものがあるだろうから、あとで調べれば特定できるはず。

「無理だって。大抵は目に包帯を巻かれていたんだから」

「うん? 何だって?」

 意味が分からん。他人の視線がある場所で、この小さな子供に目隠しをして連れ回していただと? あり得ない。

「ちょっと待てよ。さっき字が読めなかったと言ったのは、目隠しのせいか」

「そうだよ。包帯を巻かれてた」

 包帯か。つまり、病人を装わされたんだな。合点が行った。

 電車が入って来たので乗り込む。できれば座らせてやりたかったが、朝のラッシュはもう始まっており、無理だった。当然、似顔絵作成もお預けだ。

「ということは、川崎だの横浜だの埼玉だのは、耳で聞いたのを覚えていたって訳だな」

「そう。あ、埼玉は後ろに何とかってくっついてた」

「さいたま新都心駅か」

「多分、そんな感じ」

 JRと分かった。しかし、あとで調べてみたところ、埼玉と付く鉄道の駅はさいたま新都心駅しかなかったんだが。

「お、次で降りるぞ」

 遅延もなく、予定通りに※※駅に着いた。西改札を出た時点で、七時二十五分頃だった。その二分後ぐらいだったか、藍染も改札を出て来た。

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