第11話 探偵の朝はレンジ飯で始まる
朝。食事の支度を手早く済ませる。昨晩は炊飯器のタイマーセットをしなかったので、電子レンジで温めるタイプの非常用白飯(というのかね、あれは?)を活用した。買い置きしてあると便利だ。
他は残り物の味噌汁に漬物に納豆、節子用に卵焼きを作った。
「……」
食卓に着いた節子は、レンジでチンした白飯を不思議そうに見ている。まさか、初めてか、こういうの? 早く食べてくれないと、後々のスケジュールに響く恐れがあるので、「どうした、食べないのか」と聞いた。
「朝はパンに決まってたから」
なるほど。一味の朝もそれなりに忙しかったらしいな。トーストならご飯物より早いだろう。
「パンしか受け付けないって言うんなら、今日はない。近くのコンビニにあるだろうから、このあと出掛ける用事があるんで、そのとき買うぞ」
「ううん、パンじゃなくても、ご飯で大丈夫だけど」
「だったら、早くいただきますしろ」
「お茶碗で食べたい」
「――面倒だな」
誘拐されていた間も、こういう飯は出ただろうに。一味はマナーに厳しかったのか? とりあえず大人用の飯茶碗を持ってきてやった。
「全部食えるなら食っとけよ。今日は結構動き回ることになる」
「分かった」
茶碗に180グラム分の白飯を移すと、きれいに崩して、おひつから盛り付けたみたいに整えた節子。これはまじで、マナーを仕込まれているのかもしれない。
考えてみれば、犯人グループは、節子を利用したおそうとしていた節がある。成人後も“女”として様々な犯罪に加担させるつもりがあったのなら、こういうマナーを早い内から仕込んでいておかしくない、か。
朝からまたまた嫌な想像をしてしまった。
「生野菜がないんだね」
節子が言った。
「いらんだろ。野菜なら味噌汁に入ってるし、漬物だって野菜みたいなもんだ」
「塩分が多そうだなあ。毎食、サラダを食べると健康と肌のためにいいって言われてたんだよ」
「……小さい子供がそんなことまで今から心配すんな。好きな物を好きなように食べろって」
痩せた体型を維持するとか、美肌とか言い出すのなら、パンだって最適とは言えないだろう。誘拐犯の連中は、どういう基準で食わせていたんだ。
「じゃ、マヨネーズ。卵にはマヨネーズが合うよね」
「分かった。持ってきてやる。だが、程度問題だぞ。器にてんこ盛りとかするな」
朝食は慌ただしくも順調に済んだ。
その間、テレビでニュース番組を入れっぱなしにしていたのだが、目当ての報道は何もなかった。断るまでもないが、節子をさらっていた一味に関するニュースだ。殺人事件のニュースが一つあったが、南日本でのご近所トラブルがエスカレートしたものらしく、関係ないのは明らか。被害者の顔写真も出たが、節子は無反応だったから違う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます