第10話 強力な協力者

「少しの間だけだ。当人が警察を嫌がってる。説得する予定だから、それまで辛抱してくれ」

「予定は未定であり決定ではない、というフレーズが僕の脳内を何度も横切っています」

「そのフレーズを通行止めにしろ。いいか。明日の朝、そうだな、九時に※※駅の西改札で会えるか。試料を渡したい」

「無理。遅いっす。明日というか今日のことでしょ、それ。出勤しなくちゃいけない」

「何時ならいける?」

「むむ……七時半ぐらいなら」

「そうか頼む。あと、十ないし十五年ぐらい前の赤ん坊誘拐事件、当たってみてくれ。もちろん未解決のやつだ」

「人使いが荒いにも程がある。僕がこれまで組んだパーティにもこんな暴君は――」

「礼はする。頼んだぞ」

 電話を切った。何かあれば向こうから掛けてくるだろう。

 俺は俺でやるべきことがある。まずは、七尾節子が着ていた服を入れる袋を探した。適当な物が見当たらないので、自治体指定のゴミ出し袋にする。半透明なそれに、きちんと畳まれた服をそのまま入れた。さすがに袋のサイズが無駄に大きく、余分なところを幾度か折り畳んだあと、口を縛った。

「あ、靴も新しいのを買ってやるべきだったな」

 失敗に思い当たり、つい、独り言が出た。今から買いに行くのは無理がある。仕方がない、次善の策と行こう。

 俺は割り箸と爪楊枝と古新聞紙、それにビニール袋を持って、土間まで行った。新聞を広げた上に、節子の靴を慎重に裏向きにする。何らかの特徴的な物が、靴裏の溝に挟まってはいないか、目を近付けてみた。が、専門ではない俺には、何が特徴的で何が一般的なのかさっぱりだ。とりあえず、溝の何箇所かを割り箸の先や爪楊枝を使ってほじくり、詰まっていた土や砂、雑草の切れ端らしき物体なんかを採取してみた。

 あとは、節子の血液が採れればいいんだが、それは高望みというものだろう。でも、血液型ぐらいなら本人が知っているかもしれないな。朝一番に聞くとしよう。DNAなら毛髪でもいいが、十何年か前に生まれた赤ん坊のDNAが分かるような試料もしくは資料が現存しているのだろうか? 両親が健在なら検証可能のはずだが、時間は掛かる。

 似顔絵に関しては簡単な聞き取りをしたのみで、まだ描いていないが、心配はしていない。通常の事件なら、少しでも記憶が新しい内にできる限り早く描くのがいいんだろうが、今回は違う。犯人連中と十年以上も一緒に暮らしてきたのだ。否応なしに、鮮明に記憶しているに違いない。

 そこまで段取りを決めると、急速に眠くなってきた。安心できるような状態にはまだほど遠いが、目処が付いて力が抜けた感じだ。

 元々、酔いを覚ますために、夜の公園でぽつねんと休憩していただけだった。それがあのガキの登場で、こんなことになるとは。先は長そうだが、付き合うと決めからにはとことん最後までやり遂げる。

 シャワーを浴びたあと、さっさと自分の寝床に潜り込んだ。目覚まし時計のセットを忘れずに。

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