第7話 見通しは暗いか明るいか

 料理を待つ間、わずかでも調べを進めておこう。

「これから少し思い出させるようなことを聞くが、もしだめだと感じたら、すぐに言うんだぞ。中止するからな」

「いいよ。もう覚悟は決まってる」

「じゃあ……」

 風呂なんかは入れていたはずだ。犯人連中は節子にきれいななりをさせようとしてたんだから。

「散髪はどうしてた?」

「切ってもらってた。うん、言い忘れてたけど、犯人は男二人と女一人、それから先生役の男が一人だった。切ってくれたのは女」

「死んだのは?」

「男。子分みたいな感じだった」

「……連中に名前はなかったか? 本名かどうかはともかく、呼び合ってた名前があったと思うんだが」

「えっと。リーダーっぽい男がオオタ、子分はタナカ、女はリズで、先生役が亀山かめやま。先生役だけ漢字で亀山って書くのを見た」

「念のために聞くが、女はリズって日本人か?」

「見た目はそうだったし、日本語を喋ってた。他の三人も日本語を喋った、日本人ぽかったな」

 料理がワゴンで来た。事件の話題はしばしやめにする。食事ぐらい、集中して、ゆっくり食わせてやりたい。

 が、節子は手を合わせると、凄い勢いで食べ始めた、

「ちょっと待て。慌てて食うな」

「――これが普通だよ。外の店で食べるときは、いっつも早く食べろって言われてた」

 そうか。犯人達は、外で食わせるとき、リスクを減らすために少しでも早く帰りたかったわけだ。

「それはそいつらのルール。俺のルールは真逆だ。ゆっくり食え。ちゃんと噛んで、味わってな」

「分かった」

 落ち着いたあと食べる姿は、箸の使い方は様になっているし、そういえば最初にきちんといただきますと言っていた。ごく基本的な作法だが、犯人達はちゃんと教えたってことになる。

 意図が分からん。犯罪行為とは別に、子供を一人前の大人になるまで育てる気があったというのか?

 あるいは……大きくなってからも犯罪に加担させるために、一人前の女に育てようとしていたのか。自分で想像しておきながら、信じがたい。そんな目的で手間を掛けるくらいなら、成人前後の若い女性を仲間に引き込む方が効率的というものではないか。

 最初に直感的に想像したよりも、大きな犯罪組織が関与してるのかもしれん。そう思うと、恐ろしさを覚える。

 今のところ手掛かりはレシートしかない。あとは節子がどのくらい記憶しているか。

 動くのは早い方がいい。が、レシートの店のある辺りに行くのは、朝になってからだな。夜の内にできるのは……似顔絵だ。俺は得意な方じゃなかったが、警察官時代に一通りの技術は習った。どこまでできるか分からんが、やってみよう。

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