第3話 育ての親

 言ってから、ガキは俺の表情から何かを読み取ったのか、すぐさま付け足す。

「一回だけ、一人だけだよ。おとり役で。殺すなんて知らなかったし」

「他の犯罪では、分かっていて手伝ったこともあるのか」

「……」

 答えない。

 色々と問いたいことが内から溢れてきて、喉まで出掛かったが、どうにかとどめた。尋問は俺の本業ではない。

「警察がだめなら、俺にどうして欲しいんだ? 何を考えて俺に接近した?」

「……最初にあんな風に誘ったのは、弱みを握って言うことを聞かせようと思ったからで、ごめんなさい」

「それは今はいい。おまえさんの意図を知りたい。分かるか、意図」

「残りの二人を始末してもらおうと考えてた。誘拐犯は死刑にはならないんでしょ?」


 無茶を言う。

 思わず片手で額を押さえた。酒の酔いとは無関係に、頭の痛い話だ。

 恐らく、死んだ一人を除いた誘拐犯二人は、このガキが逃げたことをすでに知っている。知らないとしても、遅かれ早かれ、夜明けまでには気が付くに違いない。気付いたあと、どう行動するか。普通ならアジトを引き払って逃げるのが最善手だろう。この子を捕らえて連れ帰るか口封じするには、時間が経ちすぎている。十年以上も犯罪を隠し果せてきた犯人連中なんだから、そのくらいの知恵は働くはずだ。

「どこからどうやって逃げて来た? 時間はどのくらい前のことだ?」

「どこかは分からないよ。時間は、もう半日は経ってると思う」

 そいつらの住所が分かれば、もぬけの殻であっても某かの証拠が残されているだろう。それに賭けてみるのも選択肢の一つだが、ガキの情報だけでは無理だ。

「何があっても、警察は嫌か?」

「命を取ると言われたら行くけど」

「――何かないか。持ってる物、見せてみろ」

 ポケットがあるのかどうか分かりづらい格好だったが、何だかんだと取り出してきた。

 ガム、飴玉とそれぞれの包み紙。短い鉛筆。ボロボロにすり切れたメモ用紙は、広告の裏か。お金はなし。あとレシートが出て来た。そこそこ有名なスーパーマーケットの物だ。現金で支払いが行われている。

「このレシート、住んでたところの近くの店か?」

「そうだよ。ごくまれにだけど、買いに行かせてくれた。家から見える位置にあるから、安心してたんだきっと」

 いい情報だ。レシートの日付は三日前。時間の打刻は15:58。小学生ぐらいが買いに来てもおかしくない時間帯なのは、誘拐犯の姑息さの現れか。

 それにしても……。

「ナナフシ。おまえさんは字の読み書きができるのか」

「できる。小学生と同じぐらいのレベルだと思うけど。それが?」

「じゃあ聞くが、誰に習った? 赤ん坊の頃にさらわれて、今みたいに大きくなるまでの間、誰かに勉強を教えてもらったなら、その親切な奴は誘拐犯か?」

「……うん、多分ね」

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