魔法少女☆エンジェルシリカ

楸白水

魔法少女☆エンジェルシリカ


 が初めて口を開いたときに思ったのは、なんて失礼な奴なんだろうという文句だった。

 下校中に夕日が沈むようになって冬が始まったなあ、空がきれいだなあなんて見上げていたら目が合ってしまったのだった。


「君の心は空っぽだから、きっと世界を救えるよ」


 どこかの家の塀の上で真っ黒な猫が私を見下ろしていた。


「一人でお帰りかい? なら暇つぶしに僕の話を聞いておくれよ」


 間違いなくこの猫から人語が聞こえてくる。私は首をかしげたが、猫は表情の分からない顔で見つめてくるだけだった。


「失礼な猫」

「驚かないなんてやっぱり肝が据わってるね、話の続きは君のお家でしよう」

「意味が分からない」


 オス猫なのか男の子の声だった。

 嘘でしょ。こんなわけの分からないモノになんで目をつけられてしまったのだろう。足場にその場を立ち去ると猫が何食わぬ顔でついてくる。もはや恐怖だった。


「何日か君を遠くで見ていたのだけど、君ほどに素質がありそうな人物はいないと思うんだ」


 確かにここ最近帰り道に何度か黒猫を見かけることがあった。ただの猫だと思っていたので微笑ましく見ていたのに。


「ついてこないで」

「つれないなあ。怪しくないよ」


 恐怖から無意識に歩くスピードが早くなってついには全速力で逃走した。いつもより遠回りをして細道を何度も曲がっても無意味だったようで、息を切らして動けなくなる私の足下でにゃんと白々しい声が聞こえた。


「まあ逃げないで聞いておくれよ。悪いようにはしないから」

「ど……どうして、私なの」


 息も絶え絶えにやっとのこと言葉を絞り出す。黒猫はうーんと軽く唸ってから目を細めて声を弾ませた。


「さっきも言ったけど、君の心はからっぽなんだ。それに部活もサボって暇そうだし」

「ほんと失礼なことしか言わない」

「君なら僕にぴったりなになれるよ! まずは友達になろう」

「ごめんウチはペット禁止なの」

「そうなの? 君もご両親も猫好きの一軒家なのに?」

「……」


 どうやら学校生活や家族構成、住所まで割られているらしい。この猫は私のことをどれだけつけ回していたのだろう。いや、たぶんこいつは猫ではない。猫に変化した何かだ。


「猫がダメならこうしよう。ちょっと待ってて」

「えっちょ、えええ……」


 黒猫の体を謎の煙が覆い尽くしたかと思えばあっという間に人間の男の子に姿を変えてしまった。私が通う高校の制服を着た、同い年くらいの青年が笑っている。

 私は驚きすぎて視界がおかしくなった。しまった、白目を向いてしまった。もう一押ししたら卒倒してしまいそうだ。


「ただの暇つぶしだと思って僕と仲良くしよう! そして僕の事を助けてほしいんだよ」

「何者なの、ほんとに……」

「君のクラスメイトのクロトくん! さあ行こうか、小田嶋紫緒おだじましおちゃん」


 ああ、もう一押しが来た。私はめまいがしてふらふらと地面に倒れそうになったけれど寸前で持ち直す。奴が腕を伸ばして私を支えようとしてきたからだ。

 もうどうにでもなれ。私は空を見上げてため息をついた。


 これが夢だったら良いなあ……




「わあ、女の子の部屋って感じだねえ」

「帰ってくれないかな」


 あれからどうやっても振り切ることができずにとうとう家にまでついてきてしまった。こんな時に限って誰もいないし。

 謎の生物改めクロトは私の部屋へ無遠慮に侵入し物色している。誰か助けて。


「辛辣だなあ、もしかして僕嫌われたのかな」

「うっ」


 どうしてそんな被害者みたいな顔をするんだ。私が悪いんだっけ?


「もう単刀直入に言ってよ。私に何をして欲しいの?」

「そう? 僕はまず君と仲良くなろうと思ったんだけど」


 冗談じゃない。もう私は警察を呼びたいくらいには迷惑している。この超常現象を警察が信じてくれるかは分からないけれど。

 クロトは仰々しくコホンと咳払いをしてから、得意げに両手を広げて声を大きく張り上げてこう告げた。


「君になってほしいものはただ一つ。この世に蔓延る悪意の塊から人々を守る“魔法少女”さ!」

「……さようなら」

「ええっ! どうして! 最後まで聞いたからには手伝ってよ!」

「お帰りください」

「ちょ、押さないでそこ窓! えっうわあああああ」


 私の部屋は二階だけど、まあ大丈夫だろう。奴を窓から押し出してきちんと鍵までかけた。少しして玄関を叩きまくる音が聞こえてきたけど無視をする。早くお母さん帰ってきてください。


 それにしてもこいつは最初から最後まで意味の分からない奴だったなあ。私はこれを悪夢と思うことにして、明日にはすべてを忘れることにした。


 ……はずだったのに!!




「おはよう紫緒。昨日はずいぶんだったね」

「は?」


 玄関の扉を開けたら当然のように奴が立っていた。そうか、まだ悪夢は続いていたのか……

 助けを求めに後ろを振り返ると、お母さんがなぜかニコニコしながら奴に手を振っていた。


「いつもお迎えありがとね、クロト君」

「いえいえ。行こう紫緒、遅刻するよ」

「は、ええ?」

「紫緒をよろしくねえ」


 なんてこったい。どんなホラー映画やゲームにもびくともしない私の心臓がこのときばかりはキュッと痛いくらい縮み上がった。思わず「ひゅっ」と口からかすれた呼吸音が漏れる。

 そのまま私は奴に手を引かれてずるずると通学路を歩かされた。


「きおく、かいざん……」

「やだなあ紫緒、僕たちは一緒の高校に通う幼なじみだよ」

「ひゅっ」


 こんな恐ろしい幼なじみがいてたまるものか。むしろヒトですらないのに。なんか知らないけどいつの間にか私の名前呼び捨てしてるし。


「き、昨日のことなら謝るから。悪かったから」

「別に怒ってなんていないよ。少し過激だなとは思ったけど」


 怒ってる。これは絶対怒ってる。ニコニコと楽しそうな笑顔に似合わない冷たい双眼が瞬きもせずに私を睨んでいる。


「ご、ごめんね?」

「うんいいよ。僕は君と仲良くなりたいだけだからね」


 ダメだ。これ以上の抵抗は命に関わるかもしれない。私は観念してとりあえずこの恐怖の権化に話を聞いてみることにした。話だけね。


「ま、魔法少女って何をすればいいの? 私もう高二なんだけど」

「それはもちろん人々の心を脅かす悪いヤツを倒すんだよ」


 自分で言って恥ずかしくなってきた。周囲を確認して誰かに聞こえていないか確認する。大丈夫、近くに人はいなかった。

 何が悲しくてこんな私が魔法少女なんて……ごっこ遊びに喜ぶのは幼稚園生くらいまでじゃないの。


「何を倒すの? モンスター? 宇宙人? 未知の科学ロボ?」

「ふふ、違うよ。可愛いね」


 思いつく限りの敵のイメージを口にしてみたが笑われてしまった。やっぱり失礼な奴だなあ。

 そこでふとクロトが立ち止まった。私の手を強く握り直し、さっきのくすくす笑いから意地悪な笑みに変わる。その急激な温度差に寒気がした。

 そして私にだけ聞こえるような小さな低い声で、そっと耳打ちするのであった。


「人の敵は、いつだって人だけだよ」



 ***



 いつも通りに教室で授業を受けて、いつも通りの友達とくだらない話をする。

 そう、ずっと前から変わらない日常風景だ。あの異物を除いて。


「クロト君、次の予習してきた?」

「してきたけど見せてあげないよ。こういうのは自分でやらないとね」

「えー厳しいー」


 どうやらお母さんだけではなくすべての人間がクロトを“私の幼なじみ”と認識している。しかもなんだか女子にもてている。あいつそんなイケメンじゃないくせに、設定盛りすぎてるぞ。


「なに紫緒、そんなクロト君ばっか見て。またヤキモチ妬いてるの?」

ってなにそれ勘弁してください」

「またまたー」


 もう私には安息の地はない。万事休す。どうしてこうなった。深いため息をついていると、友達の一人がスマホの画面を私に見せつけてきた。


「そんなときはこれ! 気が紛れるよ」

「なにそれゲーム?」

「あ、あんたもそれインストールしたの? 私もしたよ!」


 話題において行かれた私とは反対にもう一人の友達が食い入るように画面を見つめだした。目が見開いてちょっと怖い。


「なに紫緒は知らないの? ほんと遅れてるよね、ほら!」

「あ、ちょっ」


 机に放置していたスマホを勝手に操られて怪しいアプリをインストールされてしまった。手元に返されたそれをおそるおそる見る。真っ黒い画面が映っているだけだった。


「うーん?」

「ごめんね。でもやってみてよ面白いから、ね?」

「じゃあ後で……」

「いや、今! さわりだけでも良いから!」

「ええ……?」


 もう授業始まっちゃうんだけどなあ。仕方ないから何度かタップしてみるけど画面が真っ黒のまま動かない。え、故障……?


「あ! 小田嶋さんもやってるの?」

「面白いよねそれ!」

「え、なになにー」


 いやいや真っ黒な画面なんだけど。なぜか他のクラスメイトまで私の所まで集まってきてしまった。

 ……雲行きがおかしくなってきた。クロトに出会ってからすべてがおかしい。


「シンプルなのについついはまるパズルだよね」

「ストーリーがいいんだよ、ただのおつかいRPGじゃない感じで」

「攻略相手がみんなかっこ良くてさあ」

「これやると本物の犬飼いたくなるよねー」


 恐ろしいことにすべての会話が噛み合っていなかった。それなのにここにいる全員が疑問を持たずに会話を成立させている。私だけが妙な汗をかいていた。

 どんなに目をこらして見ても、画面は真っ暗で何も映してはくれない。みんなには一体何が見えているんだろう。


「あれ、珍しいものに引っかかったね紫緒」

「く、クロト」

「あ。やっと僕の名前を呼んでくれたねえ」


 クロトがいつの間にか背後にいて私の両肩に手を置き頬を寄せてきた。ああ、味方がいた。今回ばかりはクロトの恐怖より未知の恐怖の方が勝って思わず安心してしまった。不覚。


「どうしたの、小田嶋さん」


 クロトの方に注目していると、上から冷たい声が降ってきた。何かを探るような、そんな声だった。


「あ、えっと、その」

「ああこれねえ、僕もやっててさあ。紫緒もついハマって聞いてなかったみたい」

「……なんだ、そっかあ」


 うまく答えられない私にクロトが助け船を出した。それが正しい選択だったようで、みんなは「続きを楽しんでね」とだけ言って散り散りに去って行った。私のそばにはクロトだけが残る。


「なんだったの、これ」

「説明の手間が省けて良かったよ紫緒。これが魔法少女最初の仕事だよ」

「……ホラーだよこれ。想像と全然違う」

「大丈夫、僕といれば怖くないよ。放課後また話をしよう」


 全然大丈夫じゃないんですけど……文句を言おうとしたところでチャイムの音にかき消されてしまったのだった。


 それから放課後になるまでクラスメイトのことを何度かこっそり盗み見てみることにした。怖い物見たさだ。

 誰も彼も授業中だというのにこそこそさっきの真っ黒画面のスマホを無表情でいじり倒している。おかしいなあ、こんなだったっけかなこのクラス。

 そして放課後、私は鞄をひったくるように雑に掴んで教室を飛び出したのだった。


「きっと昨日今日からのものだろうねえ。生まれたてで不安定だった」

「あの、屋上は立ち入り禁止じゃ」

「だから良いんじゃないか」


 夕暮れ時の屋上はとても寒い。今日はコート着てくれば良かった。寒さで震える私をクロトはニヤニヤと眺めている。悪趣味な奴め。


「人の敵はいつだって人なんだ。人が生み出す強い負の意思……悪意や欲望が悪い方向に勝手に成長して、自分自身や他人を蝕む凶器になる」

「悪意……」

「今回みたいに人々の概念や意識をねじ曲げるほどのは珍しいけどね。良かったねえ成長しきる前で」

「嘘でしょそんなわけ分からないモノと戦うの」

「大丈夫、僕が思うに君は最強の魔法少女になれるよ。ほら!」

「ぎゃ!」


 有無を言わさずクロトが指を鳴らすと、私の体はまぶしい光に包まれ始めた。耐えきれずに目を固く閉じる。少しして目を開けると……あああ。


「きっつ……」


 ふりふりの魔法少女衣装に身を包んでいる私がそこにいた。信じたくなかったけどこれを着ているのは私だ。私以外の何者でもない。つらい。

 ただひとつ救いなのはよくある赤やピンクや黄色といった嬉しそうな色合いではなく、全体的に薄紫色の落ち着いた衣装なことだった。手にはきれいな薄紫色の石をあしらったステッキが握らされていた。付属品かあ。


「魔法少女の服はその人物の心の色を表すんだよ。やっぱり君を選んで良かった」

「選……もういい。そんなに良い色なの?」

「もちろん! それにこの石、人の心を癒やすエンジェルシリカの色だ。いいね、がんばろうね紫緒」


 エンジェルシリカ……そういえばずいぶん前に友達と寄ったパワーストーン屋にそんな石があったような気がする。ぞわぞわと襲いかかる悪寒と戦いながら走馬灯のように過去がよみがえってきた。泣きたい。


「君の心がからっぽだと言ったのはね紫緒。万人を脅かす悪意の数々に、君なら何一つ染まらずに立ち向かえると思ったからなんだよ。人は負の感情や欲望に弱くて、すぐ感化されてしまう生き物だからね」

「私はそんなたいした人間じゃない」

「いいや、僕にとってはたいした人間だよ。現にさっきもあの電子の悪意に染まらなかった」

「あんまり“悪意”がなんなのかよく分からないんだけど、どうやって倒すの?」


 乗り気はまったくないのだけど、もうこうなったら後戻りはできない。仕事だと思って割り切ることにした。早く済ませばそれだけ早く帰れるわけだし。


「敵の正体は人間の残留思念、といえばいいかな。誰かから漏れ出した強い負の感情が、本人たちのあずかり知らぬところで勝手に集まって成長し、猛威を振るって他人を巻き込む。そしてその感情も取り込んでまた他人を……雪だるま式だよ」

「分かったようなそうでないような」

「そんな形のない敵に立ち向かう手段が僕たちの作り出した魔法少女服というわけさ」


 そっかあ、と私は間抜けな返事しか出てこなかった。もっといい服、普段着とかスーツとかで良かったんじゃないかなあ。なんでこんなデザインなのかなあ。


「人の悪意は物や場所、はたまた今回みたいにインターネットの世界まで媒介にするんだ。だから今日はこの中で戦うよ」

「え、スマホの中!?」

「そ。安心して、僕も一緒について行くから」

「待って心の準備あああ!」


 待ってくれるような奴じゃないと知っていたけど、あんまりすぎる。私は再びまばゆい光に包まれていったのだった。



 ***



 少し意識を失っていたようで、私ははっとして辺りを見回した。チラチラと文字や映像が横切るけれどよく分からない。私自身はというと何ともいえない無重力空間に浮いていた。今までにない感覚でちょっと気持ち悪い。


「座標が少しずれたみたいだけど、まあ許容範囲かなあ。着いたよ紫緒」

「……ここでは猫なんだ」

「僕につかまってて、目的地はすぐそこだから」

「ひいいい速いいいい」

「ここでは自分の思うように動けるよ、紫緒も早く慣れてね」


 とてつもない速さでクロトが飛ぶので振り落とされないように掴まるのが精一杯だった。自分の意思で飛べるということなんだけど、難しいなあ。

 ほどなく私たちは開けた場所に到着した。色んなジャンルの映像が周囲を飛び交い、不気味なノイズを奏でている。早くこんな場所とはおさらばしたい。


「ここだよ。気を引き締めてね紫緒」

「ううう……」


 この空間の中心にはいた。真っ黒で大きな塊が、一際大きな音を出していてうるさい。


『現実嫌だな~』

『フラれた! 嘘でしょ意味わかんない』

『授業つまんない! 面白いことないかな』

『暇つぶし……暇つぶし……』

『流行ってる……ついて行かなきゃ』


「なんかアレから色んな声が聞こえてくる」

「一つ一つは小さな感情だけど、寄り集まって凝り固まると恐ろしいねえ」


 きっとこれがクロトの言う“悪意”の正体なのだろう。人から生まれた思念のくせに、人から離れて勝手に成長して人を危険にさらすモノ。迷惑千万極まりない塊にふつふつと怒りがこみ上げてきた。


「紫緒、大丈夫? あの言葉に耳を傾けたら危険だよ。感化されてしまう」

「誰が感化されるものか……」

「ん?」


 私はゆっくりと塊に近づいていく。塊が何かほざいているけど一つも頭に入ってこなかった。仁王立ちのポーズで、強く右手のステッキを握りしめる。


「私はねえ、何の冒険もリスクもなく安定した人生を歩みたかったんだよ。だから今までそれなりに真面目に生きてきたのに」

「し、紫緒?」

「人生消化試合でもいい! それなりに貧乏じゃなく暮らせて、命の危険もなくストレスもなく、ましてやこんな恥ずかしい格好して正義の味方ごっこしない人生を望んでたのに!!」


 ステッキを怒りに任せて振りかぶり、塊の方へ先端を向ける。ステッキの先にあるエンジェルシリカが光り輝き始めた。


「私の平和を返せコノヤロー!」

「うわああ!」

『ぎゃあああああああ!!』


 パァァァン!

 輝く光が光線となって塊を貫き、まるで大きな風船が弾けたような音をさせて塊は破裂した。こなごなになった塊の破片がキラキラと残光を反射してまぶしい。


「す、すごいや紫緒。圧倒的な強さじゃないか……想像以上だ」

「……早く帰って寝たい。そして忘れたい」


 達成感などあるわけがない。強くたって嬉しくもない。私は恥ずかしさで頭を抱えてうずくまった。




 ――あれから一晩経った。

 クラスメイトはあんなアプリの事なんて微塵も覚えてはいないようで、また新しい何かに夢中になっている。流行り廃りなんて一瞬だ。山ほど存在するアプリが突然一つ消えたところで誰も気にしないだろう。平和な日常だ。

 ……私の所にも、その“平和な日常”が帰ってこないかなあ。


「紫緒、また放課後に付き合っておくれよ。今度は少しやっかいな相手かもしれないんだ」

「あれで終わりじゃないんだ……」

「何を言うんだ。人間の心はいつだって悪意を生み出すものだよ。むしろアレはプロローグみたいなものさ」

「はあ……」


 クロトは当然のように私の隣の席を陣取り微笑みかけている。昼はこうして幼なじみとして、そして夜は飼い猫として私に二十四時間つきまとっている。悲しい。


「紫緒は本当に逸材だよ。このまま僕と一緒に頑張っていこうね」

「うそぉ……」

「僕は何にでも化けられるから安心してよ。少年から青年、なんならおじさんやおじいさんにも姿を変えられるから怪しまれないよ!」

「あんたは何年私につきまとう気なんだ……」


 つまり私はこの先何年も魔法少女をやらされるのか、やめてくれ。お願いだから。もう現時点でも苦しいんだぞ。


「お二人は相変わらずアツアツですね~」

「今日もおはようからおやすみまで一緒なの? ひゅ~」

「やだなあ、からかわないでよ。ね、紫緒?」

「いっそ殺して……」


 戦う相手より恐ろしい相棒を目の前にして、私は絶望のため息をついた。

 この終わりの見えない悪夢はまだ始まったばかりである。






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魔法少女☆エンジェルシリカ 楸白水 @hisagi-hakusui

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