第31話 スキルツリー、一つ制覇!
日が暮れてしまう前に二人を冒険者支援協会に連れて行く。
ここは冒険者にとって重要な施設。
面倒を見るように頼まれたからにはきちんと教えておかないとね。
私がそうしてもらったように!
「いらっしゃいませ。こんにちは、シアさん」
「こんにちは、クミルチさん。今日は新人さんを連れてきました」
「まあ! うふふ、シアさんもすっかり先輩ですね!」
「い、いやぁ……一人ちょっと特殊な感じで……」
「?」
ん?
二人ともなにを固まっているの?
バアルさんが少し焦ったように小声で「え、これNPC、ですよね」と耳打ちしてくる。
ああ、クミルチさんが人間みたいに会話するから驚いたのね。
……いや、まあ、驚くけどね、最初は。
「もしかして、クミルチさんも『オリジナル』がいるNPCなんですか?」
「そうですよ。あ、どなたかに聞いたんですか」
「はい、サイファー騎士団長に」
「さすがはシアさん! 騎士団長様とお知り合いだなんて! けど、騎士団長様に比べたら私なんてまだまだですよ。私、今年実装されたばかりなんです。まだまだ勉強不足なんですよね」
「そう、なんですか?」
けど、確かにサイファーさんやハイル様やキャリーたちに比べるとNPC感と言えばいいの? ……が、ある。
それでも普通のNPCに比べればずっと人間らしい。
『人格提供者』はいるけれど、今年NPCとして実装されたからまだ完成してないって事?
「はい。『
「へぇ……。それじゃあ、日々受付をして経験値を積んでるんですね」
「はい! 人間性が磨かれれば、プレイヤーの皆様にもっと安心感を感じて頂けると思いますから! ですから皆様、どんどん話しかけてください! それが私の経験値となりますので!」
つまりハイル様やキャリーが冒険者やったりパン屋さんやったりしているのも、それが『人間性』を養う経験値稼ぎだったのね。
サイファーさんは騎士団長としてプレイヤー騎士を鍛えているし、ロディさんも寮でプレイヤーのお世話をしている。
ほえ〜……ふ、深い!
このゲーム、本当に深い!
「……こ、このゲームこんなにプレイヤーに配慮がされているのか……」
「スゲーよなぁ! おれ、ワクワクしてきたよ!」
「はいはい。えっと、とりあえずこの二人に協会の事を教えてあげてほしいんです」
「かしこまりました! それでは説明しますね」
特に真新しい事はなさそうなので、二人が説明を聞いている間ロビーのソファーで待つ事にする。
その間、カバンから孵化器と卵を取り出してアイテムの説明を確認しておく。
えーと、なになにアイテム名は【竜の卵】……そのままかい。
「!」
【竜の卵】レア度☆☆☆☆☆(MAX)
最強種ドラゴンの卵。
え、と思わず声が漏れた。
ちょ、ちょ、ちょ……レ、レア度がMAXなんですけど。
竜の卵ってこんなにレアなの!?
こんなのもらっちゃって良かったの!?
そ、そりゃ確かに報酬でもらったものだけど……まさかこんなにレア度が高いなんて!
「…………」
どんなドラゴンが生まれてくるのだろう。
これは、ハイル様やキャリーにやっぱり直接お礼が言いたいなぁ……。
この国を出る前に挨拶して行くつもりだったし、明日またお城に行ってみるか。
「……旅立つ予定が延びるなぁ」
思いもよらない事が立て続けに起こるから仕方ない。
それに、あの二人の事もあるし——あれ?
「そういえば……」
ステータスを開く。
職業のスキルツリー……『商人見習い』……。
っ! 開いてる! やっぱり開いてる!
「やったぁ!」
「「「?」」」
クミルチさんたちが突然立ち上がった私に不思議そうな顔を向ける。
でも、私はそれどころではない。
『商人見習い』のスキルツリーに『商人』の習得が可能と出ていたのだ!
『商人』取得のために必要な条件……『レア度☆☆☆☆☆以上のアイテムを取引』が、この【竜の卵】をもらった事でクリアとみなされたという事!
やった! これで『商人』になれる!
職人系の職業も取得出来るようになる!
では早速! 取得!
『新職業、商人を取得しました』
くぅ〜! ようやく!
もう即サブ職業を『商人』に設定、っと……ん?
『商人見習い』のスキルツリーが全開放されました?
……本当だ、スキルツリーが成長しきってる。
こんな事あるんだ。
初期職の一つとはいえフルコンプしたとなると少し嬉しいかも。
「?」
えっと、なになに? ボーナス?
へぇ、スキルツリーを全開放すると、ボーナスもらえるの?
【ボーナスを受け取りますか?】
【はい】【いいえ】
もちろん【はい】を押す。
「なにこれ……金貨?」
出てきたのは一枚の金貨だ。
でも、一万円の硬貨とも違う。
首を傾げてクミルチさんの方へ戻る。
分からない事、困り事は冒険者支援協会の受付に聞け! だ。
「クミルチさん、これはなんですか? 『商人見習い』のスキルツリーが全開放されたら、ボーナスとして出てきたんですけど……」
「おめでとうございます! スキルコインですね!」
「スキルコイン?」
聞くからになにやら便利そうな名前のアイテムだ。
鑑定してみると【スキルコイン】と表示される。
けれどそれだけで、どんなものなのかは説明が出ない。
「はい、それはスキルコインというアイテムで、スキルツリーのスキルを一つ開放出来る特別アイテムです!」
「! スキルを取得出来るという事ですか⁉︎」
「はい。ただし一つだけです。職業や武器、武具、あとはアイテムスキルツリーを全開放してももらえますね。上位職などだと、十個くらいもらえたりもするそうですよ」
「へえ……」
一生かかっても、このゲームの全てのスキルツリーを全開放するのは不可能だろう。
ビクトールさんはそう言っていたし、得手不得手もある。
確かに……こんなボーナスアイテムでもなければ本当にキツイだろう。
「上位職になるまで取っておく方がほとんどですね」
「はっ! そ、それもそうか!」
上位職や上級のスキルツリーを開ける方が大変だもんね。
そりゃ持ってた方が後々有利にもなるか!
そうしよう!
「なぁなぁ、クミルチさん、刀ねーの? 刀」
「刀は『桜葉の国』にしかないって言われてなかった?」
「もしかしたらこの国にもあるかもしれないじゃん」
「刀は『桜葉の国』にしかありません。あとは行商人の方が『刀』を売っていれば購入、装備する事でスキルツリーを得られますけれど……あとは、そうですね……この国にも生産系プレイヤーの方が鍛冶屋兼武具屋を出店しています。その方にお願いしてみてはどうでしょう?」
「! どこどこ⁉︎」
「王都にお店を出しておられますよ」
「え、そうなんですか?」
プレイヤーのお店といえばチーカさんの雑貨屋さんしか知らなかったな。
……また出発が遅れるけど、生産系プレイヤーには会っておきたい。
だって、私が目指すのも生産系プレイヤーなわけだし。
王都に出店するほどのプレイヤーって事は、きっとすごい人に違いない、よね?
私も鍛治師のスキルは欲しいし、弟子にしてもらえないかな……とりあえず『鍛治師見習い』だけでも……!
「お店だけでオーナーのプレイヤーさんは本店の方にいらっしゃる事がほとんどだったと……ですが、売り上げ回収に来ているかもしれませんし、行ってみてください」
「え? どういう事?」
「もしかして、複数店舗を持ってるプレイヤーなんですか?」
「ええ! とてもすごい方ですよ。なにしろ通り名のある方ですから!」
「通り名……」
確か、スキルをたくさん開放して、名前が知れ渡ったプレイヤーは『通り名』や『二つ名』で呼ばれる。
そうすると指名の依頼も来るようになるそうだ。
いわゆる『自分をブランド化する』って事。
う、羨ましい!
私もいつかそんなプレイヤーになりたい……!
「その名も——」
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