第24話 一ヶ月経ったので出国を検討しようと思う
この世界……『ザ・エンヴァースワールド・オンライン』通称『ZEWO』。
十代から四十代の若者の自殺が多発する2XXX年。
それを打破するため、逃げ場として政府公認のVRMMORPGサービスが開始する。
それが『ZEWO』だ。
私、
広告で見かけたそのゲームを衝動的に始めたのだ。
私はそのゲームで現実のしがらみを忘れ『自由に生きる』事を選ぶ。
実際、『ZEWO』を始めなければただ泣いて……それで満足してそのあと、現実に戻ってからどうしていたか……。
「行ってきまーす!」
「いってらっしゃい!」
ここははじまりの国『エレメアン王国』。
そして私が今寝泊まりしている支援宿舎。
ゲームを始めて一ヶ月。
スキルも増えてきたし、そろそろ隣の国を目指しても良いかもしれない。
そう思いながら、第三柱大通りに向かう。
キャリーのパン屋さんは今日開いてるかな?
「みぃ!」
「わふん!」
「ん? どうしたの、二人とも?」
私の足元で可愛らしい鳴き声を上げたのは、テイマーとなったきっかけ。
私の大切な仲間である二匹のモンスター。
黒い狐はあんこ。
白い犬はだいふく。
この二匹は接近戦があまり得意ではない私の代わりに、前線に出てモンスターと戦ってくれる。
そして、この二匹のステータスを見て驚いたんだよね。
【あんこ】
HP:999999/999999
MP:800000/800000
攻撃力:56
耐久:60
魔法攻撃力:58
魔法耐久:100
俊敏:72
器用:5
運:65
種族:九尾狐(幼体)
【だいふく】
HP:999999/999999
MP:800000/800000
攻撃力:56
耐久:60
魔法攻撃力:100
魔法耐久:56
俊敏:61
器用:5
運:56
種族:フェンリル(幼体)
……この子たちのHPとMPの数値、おかしくない?
と、この王都で雑貨屋を営む同じプレイヤーのチーカさんに聞いたところによると、テイマーモンスターのHPは総じて高いものなのだという。
このゲームがプレイヤーに他のゲームよりはリアルでありながらもそこそこ『甘い』せいだろう……との事。
冒険者NPCもHPが序盤でアホな程高い人ばかりなので、基本的に彼ら……あんことだいふくも、プレイヤー……つまり私を守る為にHPとMP数値がふざけた設定になっているらしい。
そう考えるとこの小さなもふもふが途端に愛おしくなる。
見上げてくるキラキラの瞳。
ブラッシングしたから、もふもふはふさふさ。
思わず二匹を抱き上げると、嬉しそうに頬擦りしてくる。
んあぁ〜!
もおおぉ〜!
「可愛いなぁ! 君ら〜!」
「みいぃ〜」
「きゅーん!」
それにとってもぬくぬくなのよね。
ブラッシングしたからふさふさに腕が埋もれていく。
シャンプーも嫌がらないから良い香りだし。
動物って、飼ってみたかったし……テイマーになって正解だったな。
「あ、協会で今日の依頼の確認をしていこう」
大通りの一画にある大きな道場のような建物。
ここは冒険者支援協会。
いわゆる冒険者ギルドのようなところだけど、他のゲームよりもその役割は多い。
荷物や手紙のの受け渡し、配送の依頼。
地図案内や、宿屋の手配。
拾得物の届け出や、捜索依頼など。
他にも行方不明になった知り合いのプレイヤーの捜索もしてくれるらしい。
こういうゲームなので、突然フレンド登録した人がなにも言わずに消える事がしばしあるんだとか。
まあ、人間関係は自殺理由のダントツトップだもんね。
かくいう私も大きく括るのなら人間関係に疲れてこのゲームに逃げ込んだんだもの。
とにかく、そんな様々な事が出来る冒険者支援協会。
一般の冒険者職のプレイヤーは、ここで
まあ、実は協会に来なくても報告だけならステータス画面から可能だし報酬受け取りも出来るんだけど……受注だけはここに直接来ないとダメなのだ。
「おはようございまーす」
「あ! おはようございますシアさん! なぁんてナイスタイミング!」
「え?」
茶髪の可愛らしい女の子のNPC、クミルチさん。
普段は笑顔で出迎えてくれるのに、今日は焦りまくった表情。
その受付カウンター前には一人の少年が立っていた。
太陽のようなオレンジ色の髪と緑の瞳。
カーソルは緑。
プレイヤー、だろうとは思ったけど……装備がない。
冒険者の初期衣装、という事は……あ、ものすごく嫌な予感。
「まさかビギナーの面倒を見て欲しいとか言いませんよね?」
お断りよ!
私、そろそろ本格的に隣の国へ行こうと思ってたんだから!
……まだどこの国に行くかは決めてないけど!
素材の勉強とか、『商人見習い』のスキルツリーを成長させる為に手っ取り早く国と国を行き来しても受ける『交易商人』になろうと思ってたんだもん!
ようやく戦闘スキルも増えてきて、あんことだいふくもスキルツリーが成長してきたの!
こんなところで足止めなんて嫌!
しかも、割と慎重派なのでスキルツリー解放重視なもんだから、普通のプレイヤーより戦闘スキルの伸びが悪い。
もともとの
ゲーム慣れしたプレイヤーならよその国へ行っているだろう。
わ、私もそろそろ、出ようとは思ってるけどね?
「いえ、あの、そのぅ」
「初めまして! おれ、チナツ!」
「え、あ、は、初めまして、シアといいます」
え、お、おお?
ちゃんとご挨拶が出来る人?
アバターは私と同い年くらいだけど、このゲームに入って来たばかりの人にしてはすごく、こう……生き生きしているというか……。
なんだろう、違和感がある。
「このゲームに姉ちゃんがいるんだ! おれは姉ちゃんを探しにきた! でも、聞いても教えてくれなくて!」
「え? え?」
「ああぁぁあのですね! 今説明しました通り、そのお姉さんのアバター名やIDが分からないと調べようがないんですよ」
「っ! だから! プレイが開始された日付とかで調べられないんですか!」
「む、無理です! 日に数十人がゲームを開始する事もあるんですよ! こちらでは調べる手立てがありません……!」
「っ……」
「………………」
な…………なるほど?
この子はお姉さんがゲームを始めたから、わざわざゲームの中まで探しにきたのか。
「…………」
そうか、その手がある。
でも、きっとそのお姉さんは……探されたくないと思う。
本名でプレイする人なんて稀だろうし、アバターをリアルと同じにするとも限らない。
プレイヤーIDが分からなければ探し出すのは至難の業だろうな。
「ゲームをお姉さんが始めたのはいつ頃なんですか?」
「半年前! なにか知らない!?」
「……ご、ごめんなさい。私も始めたのは一ヶ月前なんだ……」
「……あのぅ、なんにしても装備は整えた方が良いかと……。そんな格好のままだと、町中のならず者にもはっ倒されますから」
そうね、クミルチさんの意見には賛成。
ひったくりプレイヤーは捕まって、騎士団で矯正中だけど……町中には小銭稼ぎのならず者がうろうろしている。
武器もないプレイヤーは勝てない。
深く溜息を吐いた。
仕方ないなぁ。
「支度金は受け取ってるの?」
「え、あ、ああ」
「とりあえず装備だけは整えた方が良いよ。クミルチさんの言う通り、定番クエストのならず者がいるの。お姉さん探しに関してはご飯を食べながら聞いてあげるから……まずは防具屋さんに行こう」
「…………」
「それが嫌なら私は今日の依頼を探したいから退いてくれる?」
「……、……わ、分かった。防具屋に行くよ」
ふむ。
素直でよろしい。
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