第22話 五日目の朝



 翌日、五日目の朝。

 私は昨日フレンド登録したマティアさんと待ち合わせ。

 第三柱大通りで、朝から開いているカフェで朝食を摂る約束もしたの!

 カフェで朝食なんておしゃれ! 楽しみ!

キャロラインのパン屋さんに顔を出すのは、そのあとにした。

 キャロライン、ちゃんとお休み取れたかな?

 まあ、ハイル様があの勢いなのでは取る以外の選択肢はなさそうだけど。

 もしもパン屋さんが開いてたらチーカさんに教えてあげよう。

 キャロラインに会ってみたそうだったし。


「みぃみぃ」

「うん、マティアさんに会いに行くよ。今日のご飯は少し贅沢して、外食」

「わん!」


 あんことだいふくを引き連れ、待ち合わせのカフェへ。

 赤い煉瓦造りの外装に、大きな窓ガラス。

 蔦が壁を覆い、黒い鉄のおしゃれな看板。

 黒い窓枠のようなドア。

 一階建てかな?

 でも手摺が見えるから、二階は店主さんの自宅かも?

 王都に自宅兼店舗を構えているプレイヤーだとしたら、すごい人に違いないな!

 いや、まだプレイヤーとは限らないけど……外装は文句なしにおしゃれ!

 こんなところにこんなおしゃれなお店があったんだ〜。

 家と学校の決まりで寄り道不可! だから、カフェってちょっと憧れてたんだよね~。

お金があったら通いたい!

 第三柱大通りは飲食店が多いけど、一日ゆっくり見て回りたいかも。

 そんな願望を抱きつつ、いざ! おしゃれなカフェへ……入店!

 は、はわわ~、ついに私もカフェデビュー!


「いらっしゃいませ。初めてのお客さん?」

「は、はい」


 とても落ち着いた店内だ。

入ってすぐ左手にダークブラウンのカウンター。

壁やテーブル、座席も暗めの木目調。

入った瞬間鼻腔に入り込む芳しいコーヒーの香り。

 そして私に声を掛けてくれたのは、カウンターの中にいた、おそらくこの店のマスター。 

白銀の長い髪を一房右肩に垂らし、後ろの髪はお団子にして垂らしているものすごい綺麗なお兄さん……!

 でも白いカーソル……NPCだ。

 いつも思うけど、たまーにプレイヤーみたいな雰囲気のNPCがいるなぁ。

 キャロラインとか、ハイル様とかサイファーさんとか。

 なんだろ、これ。


「俺はこの店の店主でレイ。今後ともご贔屓に」

「あ、は、初めましてシアと申します。この子たちも入って大丈夫でしょうか?」


 足元のあんことだいふくを見せる。

 ほう、と珍しいものを見る眼差し。

 青い瞳が面白いとばかりに細くなる。


「ああ、構わないですよ。けど、動物の苦手なお客さんもたまにいるから、二階のテラス席をご利用願えますか?」

「わ、に、二階! テラス席! い、良いんですかっ」


 店先で見えた手摺! 二階席だったんだ⁉

 お、おっしゃれ~~~~!


「もちろん。ああ、でも席まで持っていくのはセルフになるので、まずメニューとお飲物をお選びください」

「は、はい」


 それまでは二匹に影に入っていてもらう。

 カウンターまで来ると、ショーケースには美味しそうなケーキの数々。

 はわぁ……ケーキ―! 絶対頼む〜っ!


「えっと、エッグマフィンとカフェラテをMサイズで。あと、チョコレートケーキをっ」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 朝早いせいかお客さんはまばら。

 来ているのはプレイヤーばかりだわ。

 トレイが用意され、手際よく紙に包まれたエッグマフィンと紙コップのカフェラテ、お皿にフォークとともに載せられたチョコレートケーキが載せられる。


「エッグマフィンが二十円、カフェラテが十円、チョコレートケーキが十五円で、四十五円になります」

「四十五円ですね」


 サイフをカバンから取り出し、お金を払う。

 にっこりと微笑まれて、ごゆっくりと声を掛けられる。

 甘い微笑みにうっかり見惚れそうになるけど、待て待て、大切な事があるだろ、私。


「あの、今日ここで待ち合わせをしてて……とんがり帽子の魔女のようなプレイヤーなんですが……」

「ああ、マティアくん? 了解、来たら君が二階にいると伝えておきますね。それでいいですか?」

「は、はい。よろしくお願いします」


 話が早くて助かります。

 またにっこり微笑まれて、ついぽやーとなる。


「はっ!」


 いかんいかん。なんだこの人!

 いや、このNPC!

 謎のお色気のようなものが垂れ流されている……!

 近くにいるのは危険だ! なんとなく!

 品物の載ったトレイを受け取って、入り口と対面する壁の端っこにある階段をサクサク登る。


「……お、おおぉ〜!」


 扉などはなく、登り切るとそこはウッドデッキのようになっていた。

 煉瓦より柔らかな木の感触を踏みしめながら、一階よりも明るく座席数の少ないテラス席を見回す。

 ガラスの天井は、蔦が生い茂っている。

 木漏れ日が降り注ぐ感じでおっしゃれー!


「あんこ、だいふく! 出てきていいよ!」

「みぃ!」

「わぉん!」


 黒い狐と白い犬がピョーンと影から現れる。

 手摺に一番近い席にトレイを置いて、チーカさんのところで買ったお皿を取り出し、中に支援宿舎でもらえるモンスター用の顆粒ご飯を注ぐ。

 それを二匹の間に置いて「食べていいよ」と、言えば良い子で待っていた二匹は目を輝かせてお皿に鼻を突っ込む。

 はあ~、可愛い! ちゃんと待ても出来て、超良い子!

 うーん、今日チーカさんのところで新しくお皿買ってこよう。

 新しい私用のと、だいふく用の。

 今使ってるやつはあんこにあげよう。


「私もいっただっきまーす」


 エッグマフィンを紙から取り出してかぶりつく。

 ん、美味しい!

 パンはふかふか、レタスシャキシャキ、チーズ濃厚!

 目玉焼きはバターの風味がついていて、しっかり火が通った固めの焼き加減。

 お城で食べたご飯は緊張してて、あんまり味を覚えてないんだけど……今思えば中身があんな嫁愛爆発旦那を前に惜しい事をした!

 もっと味わって食べれば良かっった!


「……良いにおーい」


 カフェラテも挽きたてコーヒーの良い香りがする。

 それに、ミルクのトロッとした香りも。

 一口飲むとじんわり広がるミルクの甘み。

 あとから添えるように入ってきたのはコーヒーの苦味だ。

 少しだけど砂糖も入ってるな。

 でも、本当にちょっとだけ。

 絶妙!

 ミルクもコーヒーも邪魔しないほどちょーっぴり!

 すごい技だ……!

 私、自分でカフェラテ作ったら絶対ミルクも砂糖も入れすぎちゃう。

 ブラック? 飲めませんがなにか!


「!」


 こく、と喉を潤していると、階段を登る足音が聞こえてきた。

 振り返ると、魔女ッ子マティアさんが満面の笑みで現れた!


「おはようございます! シアさん! 本当に来てくれたんですね!」

「もちろん! だってお話聞きたかったのはこちらですし!」


 マティアさんが持っていたトレイを私の手前に置く。

 彼が椅子に座る頃、あんことだいふくはご飯を食べ終わってお互いの毛づくろいを始めていた。可愛い。

 二匹がご飯を食べたお皿を回収して、カバンに入れる。

 帰ったら洗わないとね。


「ええと、それでは食べながら! 昨日のお話の続きを!」

「は、はい!」


 という事でトークタイム!

 マティアさんの悩み……リアルでの悩みは高身長ゴリマッチョな体型。

 しかし、趣味としてはフリッフリの甘ロリ系ファッションが好き、というリアルでは一瞬で『不審者』通報されるもの。

 色味も白やピンクが好き。

 ならなんで今黒い魔女っ子風なの、と聞けば……。


「魔女っ子は魔女っ子で好きなんです!」


 と拳つきで熱く返事をしてくれた。

 分かる。

 服の趣味はひとつじゃないよねー。

 という事で、ノートを取り出した。

 彼のリアルの体型を想像しながらベースのモデルを描き、甘ロリ系、かつ男の人に見えるデザインを描き上げる。

 想像以上に難しいけど……なんてデザインし甲斐があるの……!

 楽しい。すっごく楽しい!


「わあ……」

「ここにリボンをつけて……丈の長さを左右で変えてみて……」

「可愛い〜!」

「どうです? これならマッチョ体型な男の人でも可愛くスカートを履けませんか⁉」

「は、はい! 確かにこんな服なら…………いや、ある意味別な難易度が上がっているような……? なんか完全に、普段着ではないですよね……これ。コスプレみたいですし……」

「コ、コスプレ……」


 ノートに描いたデザインを全部パラパラ見直してみる。

 う、うーん、うん、う、ううん?

 これも、これも、これも……確かに普段着として着るには確かに派手かな。


「でも甘ロリってそういうものじゃないんですか?」

「き、着た事ないので詳しくは……。いつもスマホで眺めるだけでしたし……」

「そうですかー……うーん、もっとフラットに、普段着っぽい甘ロリ系……」


 難しいなぁ。

 男の人の甘ロリスカート普段着ってこんなに難しいのか。

 いや、逆に燃えてきた。

 絶対可愛くて普段着に出来る甘ロリスカート男の人用を考えてみせる!


「……あ、そういえばチョコレートケーキ! 早く食べないと固まっちゃうんじゃないですか?」

「しまった!」


 ああぁ〜、エッグマフィンも冷めてる〜!

 ……くっ、冷めても美味しいのが救いだわ……!


「……引き続き色々デザインしてみます。また見てもらっていいですか?」

「え! あ、うん! もちろん! ……っていうか、良いのかなって感じだけど……その、ぼくなんかのわがままで……」

「は? いえいえ、私は自分のお店を出すのが目標なんです」

「え?」


 この世界で、私は自分のお店を出したい。

 目標は『魔法のドレス』を作る事。

 でも、それだけじゃお店はやっていけないだろう。

 ハイル様やキャロラインの話から、ドレスは需要がないんだよね。

 プレイヤーが煌びやかで重い、動きづらいパーティードレスなんか使う機会ないだろう。

 そう思っていた矢先のこの案件!

 きっと『着たい服が似合わなくて着られない』と、そう思っているのはマティアさんだけじゃないと思う。

 着たいのに『概念』に邪魔されて着たい服を我慢している人がいるなら、私はその『概念』を取り込んだ上で、その上をいく!


「着たい物を、着たい人が着たいように着る! 服とはそういうもののはず! 常識に囚われている人たちに、常識をきっちり踏まえた上で常識の上をいく服をデザインし、作って着せる! そう! 私はそんな服屋さんがやりたい!」

「……………………」

「だから、ありがとうございます! マティアさんのおかげではっきりしました!」

「え、あ……ど、どういたしまして?」


 とっても難しいけど、だからこそやり甲斐がある!

 よーし、頑張るぞー!

『魔法のドレス』は絶対キャロラインに着てもらうとして!

 ゴリゴリマッチョの人でも気軽に着られる『普段着甘ロリ』!

 新たな課題が見つかって燃えてきたー!


「…………シアさんすごいです……もう夢や目標があるなんて……」

「あ、私はそれを家族に邪魔されててこのゲームに逃げ込んできた人なので、多分他の皆さんと少し違うんですよね」

「! そうなんだ……いや、でもすごいよ。ぼくなんかせっかくアバターを可愛い系にしても、甘ロリ系は袖を通す勇気もないし……そもそも売ってるの見かけないし」

「……そう、ですね……? 確かにそういう服は……見掛けないです」


 確かにファンタジーな服は防具屋さんにたくさん売ってたけど、あれらはあくまで『耐久』をあげる為の『防具』。

 服の一種にというよりは装備。


「! な、なるほど! 勉強になります……!」

「な、なにが⁉」

「服屋さん兼防具屋さんを目指せばいいんですね。そうか、そうですよね、プレイヤーが着る服って基本的に『耐久』や『HP』を上げる為の『防具』ですもんね! という事は防具を作れるようにならないといけないのか……防具屋さんってどうやってなるんだろう? 生産系ですよね?」

「………………シアさんすごいです……本当に……」


 んん?

 本当になにがだろう?


「だって甘ロリ系の可愛い服の防具があれば良いって事ですよね?」

「そ、そう、だけど……」

「私、まだ『裁縫』スキル覚えてないので頑張ります! 確か『商人見習い』から『商人』に職業を成長させると『商人』スキルに『裁縫』があるらしいんですよ。そこまで成長させるには……うん、やっぱりまずは品物になる素材集めもした方が良いですよね。お金も稼ぎたいし、しばらくはダンジョン通いが良いでしょうか? 他に儲ける方法は……うーん? あ、でも魔法のスキルも上げないと……私早く『魔法付与』を覚えたいんですよ! 『魔法付与』は服に魔法効果を付与する事が出来るそうなので!」

「そ、そう、なんだ……すごいね?」

「という事はやっぱり戦い方を根本から見直そうかな……『魔法』スキルを伸ばすには槍よりも『杖』ですよね? 帰りに武器屋さんに寄らなくちゃ」


 物理で戦うのはあんことだいふくに任せるようにして、私は後方支援に徹する戦い方にシフトした方が良いかも。

 その方が魔法スキルは成長するし、あんことだいふくのステータスの成長の方向性も物理中心にしていけば良いって事になる。

 うん、それでいこう!

 あとは『ビッグ種』に遭遇した時の為に『解体』スキルも伸ばしたいけど……小型のモンスターは死体が残らないらしいから、中型のモンスターが生息する地域で販売用の素材集めをした方が効率良いかな?


「…………」

「マティアさん?」

「あ、う、ううん……。えーと、そ、そういえば、このあとどこかへ行くって言ってなかった?」

「あ、はい! キャロラインのパン屋さんです!」


 楽しい時間はあっという間!

 いつの間にか10時を過ぎていた。

 キャロラインのお店、開店したかな?

 っという事で、そろそろ行動開始しますか!


「ありがとうございました〜」

「ごちそう様でした!」


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