第18話 また来週
「はあ〜! ホックホックです! ビクトールさんがコーレギの草を買い取ってくれたおかげで無事『商人見習い』も取得出来ましたし!」
「うん、おめでとう。確かに今日一日すごく頑張ったね、シアさん」
「え、あ……」
頭なでなでされてしまった。
うわあ……なんか照れるな……!
「あ、ありがとうございます」
今日の収穫は『槍』、『魔法』、『テイマー』、『採取』、『鑑定』のスキル!
中でも『魔法』のスキルは大きい。
普通、魔法の専門職NPCに弟子入りして、いくつものクエストをクリアして覚えるものなんだって。
そしてスキルが増えたら区分が現れた。
まず武器スキル。
武器を装備して使えるスキルの事。
『槍』が該当する。
次に職業スキル。
『テイマー』や『商人見習い』が該当。
職業スキルは複数を同時に使用出来る便利なもので、例えば『商人見習い(非戦闘職)』+『テイマー(戦闘職)』あるいは『冒険者(戦闘職)』+『テイマー(戦闘職)』と組み合わせて設定出来るんだって。
非戦闘職だけだと戦えないので、戦闘職を入れる方がこのゲーム内では生活しやすいと思う。
次は『魔法』スキル。
魔法関係全般を括るスキル。
『魔法付加』や『魔法付与』も『魔法』のスキルツリーを解放していくと、独立したスキルツリーとして解放、使えるようになるそうだ。
他にも『攻撃用魔法』『治癒魔法』のスキルツリーがあるらしい。
私の場合は『魔法』と『治癒魔法』のスキルツリーを同時にゲットしたのだ!
ありがとうお婆さん!
運良く序盤で覚えられたので、これから頑張ってスキルツリーを育てていかないとね!
ああ、あと『魔法』スキルをゲットしたらステータスにも変化があったの。
魔法攻撃力:3
魔法耐久:2
この二つが加わっていた。
『魔法』スキルを覚えると、ステータスに項目が追加されるなんてなぁ。
この二つは多分『魔法』のスキルツリーを成長させればステータスが底上げされていく。
武器のスキルツリーと同じ感じだろう。
そして、最後は生活スキル。
『採取』や『鑑定』、『アイテム販売』などが該当。
私はこれらを重点的に伸ばしていきたい。
これ以外にもビクトールさん曰く『釣り』や『料理』、『掃除』なんかもある、そうだ。
『掃除』のスキルツリーって、どんななんだろう……。
微妙に気にはなるけど、今日はこのくらいで満足しないとね。
『掃除』なら支援宿舎の部屋を掃除したら覚えられそうだし!
「じゃあ初スキル取得を祝って夕飯奢ろう!」
「え! そんなお昼も奢ってもらったのに悪いですよ!」
「平気だよ、弟の残したお金あるから!」
…………ご馳走になります、ビクトールさんの弟さんの賢者様。合掌。
出来るだけ節約したいので。
「あ、そうだ。これもなにかの縁だろうし、シアさん俺と『エージェント契約』する?」
「エージェント契約? なんですか? それ」
「専属契約みたいなものだよ。俺みたいなエージェントプレイヤーは、特別なアイテムでログアウトがいつでも出来る。ゲームの中でプレイヤーを援助、支援するのが仕事だけど、その他にプレイヤーと専属契約して、冒険者支援協会を通さずに外とのやり取りが出来たりするんだ。シアさんは家族仲が原因みたいだから、余計なお世話でなければサポートするけど……」
「…………私の親に会うって事ですか? リアルで、ビクトールさんが?」
「そうだね、まあ……」
「それはしなくて良いです!」
「だよねぇ」
開始三日ですぐに帰る気になんかなれないもの。
というか、帰らないし!
お店を出して、お金を貯めるまでリアルには帰りません!
「でもシアさんは未成年でしょ?」
「うっ」
なぜバレたのだろう。
アバターが幼く見えたから?
いや、でもそれだけじゃバレないと思うし?
「多分十七か十八辺り」
「な、なんで⁉」
「選挙権の時に興味深そうにしてたから」
「!」
……ビクトールさんの観察眼すごい……!
「そういう子は積極的にサポートしなきゃいけない『契約対象』だから」
「…………」
「嫌?」
「…………それ、普通本人に話したりはしませんよね?」
「うん、でも……シアさんは歳の割にしっかりしていそうだから。ああ、もちろんシアさんが家族に会って欲しくないなら会わないよ? 家族側からゲーム内に手紙を出す場合は、家族側の意向だから俺は触れないし……ゲーム内だけのサポートを希望するならそれでも良いし……」
「…………」
「それにエージェント契約しても、俺一応社会人ボランティアみたいなものだからログインは週末だけなんだよね」
「え……」
思わず見上げちゃった。
じゃあ、今日は特別長くログインしてたの?
朝からずっと一緒にいてくれたけど、実は他に用事があったとか?
「まあ、夜ならたまにログインするけど、基本的に土日だけかな、丸一日いるのは」
「そ、そうだったんですか?」
「うん。さすがに生活があるので」
そうですね。
……そうか、まあ、そうだよね。
普通ずっとゲームの中にはいられないものね。
……ん⁉ 待って⁉ それじゃあ……!
「っていうか! それじゃあビクトールさん今日リアルでご飯全然食べてないって事では⁉」
「そうだよ。ログアウトしたらまずご飯だよ」
「わ、私に夕飯奢ってる場合じゃないですよ! 早くログアウトしてご飯食べてください! もう19時になるじゃないですか!」
「シアさんが契約するならすぐにでも?」
「え! なんですかそれ脅しですか⁉」
「そういうわけじゃないけど……まあ、そうだね……」
急に顔が近づく。
ビクトールさんが屈んだのだ。
身長差が縮まり、なんだか、その大きな体に包まれてしまうような錯覚を覚える。
「君がどんな家庭に生まれて育ってきたのか、俺は分からないけど……少なくとも君を守る大人はいるって思って欲しいんだ。どうかな、ダメ? 俺は信用するに値しない?」
「…………。〜〜〜〜っ!」
一歩、退がる。
顔が、近い!
アバターだと分かってるけど! 綺麗な顔なので!
あと、そんな、声とか! 体温、とか……!
そんなに男の人に、近つかれた事も、ないし!
うん!
こんなに近い事、なかった!
「し、し、信用とか、それは、あの……」
「まあ、とりあえずご飯食べよう。そのあと宿舎まで送るよ。それまでに決めてくれれば良いから」
「え、えぅ……」
なんだか反論する気力も起きない。
いや、削り取られた。
第三柱大通りのNPCが運営するレストランでご飯を食べて、第一柱大通りの端にある支援宿舎まで送ってもらう。
その間、他愛もない話をしつつ……言われた通り考える。
支援者がいてくれるのは……確かに心強いんだけど……でも……私は……。
「さて、心は決まった?」
明かりの灯った宿舎の前まで来て、ビクトールさんに問われる。
……私は——。
「フレンド登録だけで大丈夫です!」
「ん〜〜……」
「ボランティアなんですよね? 仕事じゃないなら、無理に関わる必要はないじゃないですか。ビクトールさんはとっても良い人だと思います。優しいし、強いし……。でも、未成年だから他の人より手厚くサポートしなきゃいけないっていう理由は……あんまり納得いかないというか……」
私はどちらかというと負けず嫌いな性格だと思う。
でも、弱い。
リアルで、妹に勝てないから逃げ込んだのだ。
そうしないと本当に『死』という形に逃げそうだったから。
それは、負けを認める事になると必死に言い訳して……死ぬ度胸もないという現実を一生懸命否定したんだ。
自分は『負けず嫌いなところのある性格だ』と思い込んで!
嫌だ。
あの家族の事を一秒だって思い出したくない。
嫌い。
あの人たちは嫌いだ。
ビクトールさんがあの人たちに会うのも、私とあの家族の間を取り持つのも、とにかく、絶対嫌!
「でも週末だけだよ?」
「うっ……まあ、そうかもしれないですけど……」
「君が家族に会うなと言うなら会わないし、会えないよ。個人情報保護があるから」
「…………」
「ゲーム内での君のサポートに徹するよ? 週末! 一日だけ!」
「………………」
ものすごい期間限定になった。
ん、んんん……。
「まあ、なので多分、次に会う時は俺がシアさんにゲーム指南してもらう側になりそうというか」
「…………目的はそっちとか言いませんよね……?」
「ろ、六割ぐらい、ゲーム詳しい人と行動したい気持ちで持ち掛けています」
「フレンド登録で十分ですよね?」
「でも未成年の子だけだと心配なのは本当だしね」
「…………」
ゲームオンチの自覚はあるのか。そうか。
「そもそも、エージェント契約して私になんの得があるんですか」
「えーと、俺と一緒に行動してると冒険者支援協会に届く手紙や荷物が俺に届くようになるので、俺から受け取れる……?」
動く郵便局……⁉︎
「…………くらいかな?」
「フレンド登録で十分ですよね?」
「……分かった、あんまりしつこいと嫌われそうだから諦めます」
「………………」
頭を抱える。
なんだ、そんな程度か。
エージェント契約ってつまり、リアルと連絡が取りたい人がするんだと思う。
私には不要だ。
私は家族と連絡取りたいなんて思わない。
お金が貯まってリアルに戻る事があっても、そのまま家族のところには帰らず一人で生きていくんだ。
申し訳ないけど……私はエージェント契約する理由と必要がない。
未成年の私を案じてくれる気持ちは、素直に嬉しいしありがたいと思うけど。
「じゃあそろそろログアウトするよ」
「あ、はい。今日は色々ありがとうございました。えーと、また来週……?」
「そうだね」
すっ、と……ビクトールさんがまた一歩近ついて、しゃがみ込んでくる。
目線が近つく。
っ、だから……顔が、近い!
「え、あ……⁉︎」
「おやすみ」
「っ!」
「また来週遊ぼうね」
爽やかに去っていくけど…………おでこに、キス、された……。
思わずおでこに手を当てる。
いや、ええ?
あの人、は? が、外国人かなにかなの?
いや、まあ、わ、わ、私だって海外に行ったり、親の協賛パーティーで海外の人にハグやキスをされた経験はあるけど……。
「うぅ〜〜〜〜」
じんわり涙が滲んだ。
いつもの悲しいやつではなく、恥辱で!
……もおぉ! なんなんだあの人はぁぁ〜〜〜〜〜⁉
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