第17話 初めてのクエストとダンジョン【後編】
というわけでズンズン進むよ!
たまに現れるモンスターを鑑定しつつ、倒しながら採取ポイントを巡る。
あっという間にコールドベリーは五個溜まった。
それに、ビギナーダンジョンなだけあって一本道。
最奥地らしき場所には大きな氷の塊。
「!」
「ダンジョンボスだな」
うっ、気持ち悪い……白いナメクジ!
それも、今まで遭遇したモンスターと比べものにならないほど大きい……!
あれがこのダンジョンのボス。
「シアさんにはちょっと厳しいな。俺の魔法の練習台にしても良い?」
「え? あ、はい、構いませんけど……倒せるんですか?」
「うん、あれぐらいのサイズなら余裕。……加減さえ間違えなければ……」
「はい?」
今なにか……ぽそりと不穏な事を言いませんでしたか?
「じゃあ行くよ、下がってて」
「は、はい」
そう言ってビクトールさんは腰の杖を取り出す。
人の指先から肘ぐらいまでの細い杖。
それをナメクジに向けて、少し照れたあと唇を開く。
…………な、なんで今さりげなく照れたの……?
「暁の藍、揺らぐ雲の白、下弦の月の垂らす紅蓮の焔よ……敵を焼き払わん!」
! ガチの呪文唱える系……!
え、これはこのゲームのコンセプト的にアリなの⁉
リアルに戻った後も呪文引きずる可能性は考えなかったの⁉ 運営ーーー!
「ムーン・フレイム!」
ぶわ、とナメクジの周りに白い炎が灯る。
三日月の形?
それがゴオォ、と一気に燃え上がると、ナメクジをドーム状に飲み込んだ。
うんまあ、そこまでは良かった。
問題はこのあと。
「え? ちょ、ちょうっ!」
「あれ? やっぱりちょっと威力ありすぎ……た?」
「はい⁉」
ミシ、ミシ、とその炎がダンジョンの天井まで燃え上がったのだ。
待って待って待って!
ビギナー用のダンジョンのボススペースといえば! ダンジョンの中ではそりゃ広めだけど!
あの炎の燃え上がり方はそれを上回ってる!
「ひゃああああぁ!」
「っあ〜〜!」
熱風を避けるように岩の形のガラスの後ろに隠れる。
炎が消えたあと、こっそり岩陰から顔を出す
。
「「………………」」
モ、モンスター跡形もない。
まあ、そうでしょうよ、あんな炎食らったら……!
天井も心なしか溶けてなくなってませんかねぇ⁉
中央にあった大きな氷の塊も消え失せて……。
「? ビクトールさん、あそこ! 大きな氷のあった場所になにかあります!」
「え? あれは……?」
アイテム?
キラキラした塊が、ゆっくり地面に降りてくる!
ビクトールさんの魔法の危険度については、後程しっかりと……し っ か り と …… ! 問い正すとして!
「…………」
「……これは……えぇと……」
光が集約され、そこにコロンと現れたのは白い犬と黒い狐。
お互いの尾を抱き締めながら眠っている。
ええ、これどうしたら良いの?
「ど、どうしましょう? ドロップアイテム……には見えませんよね?」
「まあ、アイテムではないよね。……俺は猫派だから犬と狐はちょっとな……」
「ええ……」
なんだ、その基準は。
困惑していると、二匹はゆっくり目を開ける。
左右色の違う瞳。
左目が青く、右目が黄色い白い犬。
左目が黄色く、右目が青い黒い狐。
あくびをしながら立ち上がり、ブルブルと体を震わせてから私たちを見上げる。
か、かわいい……!
「!」
ぴこん、とモニターが現れる。
『モンスターが仲間になりたそうにこちらを見上げている。仲間にしますか?』
【はい】【いいえ】
「っ!」
「俺は無理だな。一応社会人で土日以外は仕事をしているものでして」
「うっ……、……わ、分かりました。私がテイムします」
しかし、テイマーの職業は選んでいなかったはずなんだけどなぁ。
まあ……
【はい】
「みぃ!」
「おぉん!」
「えっと、よろしくね!」
二匹とも可愛いから、いいっか!
「あ、仲間にしたモンスターに名前をつけてくださいって出ました」
「なんてつけるの?」
「うっ……うーん、どうしよう?」
さすがにシロとクロは安直すぎるし、ミルクとココア……キラキラネーム感がイタイ。
呼びやすい名前が良いよね?
二文字か三文字、長くて四文字くらいの……うーん、うーん……あ、そうだ!
「あんことだいふく!」
「…………………………」
「みぃ!」
「おん!」
「良かった、二匹とも気に入ってくれたみたいです!」
「…………うん、そうだね……」
名前が決まると二匹は突然ジャンプする。
二匹の行き先は私の影の中!
え、えええ! 私の影の中に消えちゃった⁉
「スキル確認してみなよ。多分テイマーのスキルが出てると思う」
「は、はい」
ステータス、スキル……んん⁉
【シア】
HP:310/310
MP:50/50
攻撃力:36
耐久:23
俊敏:21
器用:19
運:2
職業:冒険者(テイマー)
所持金:2130
「冒険者かっこテイマーかっこ閉じ、になってます⁉」
「ああ、あるある。冒険者って戦闘スタイルが反映されるんだよ。俺の場合も冒険者かっこ賢者かっこ閉じ、ってなってるよ」
「…………。は? 賢者?」
「うん。弟は『賢者』の称号持ちだったからだと思う」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………え、なに?」
あのふざけた魔法の威力はそれでか……。
「と、というか称号システムもあるんですね」
『二つ名』『通り名』はあるって聞いてたけど、『称号』システムもあったのか。
ビクトールさんの魔法を見る限り、これ絶対『称号』による+アルファがあるやつだ!
「そうだね。色々条件はあると思うし、このゲームの感じだとなるの相当厳しそうだよね。……すごいなぁ、あいつ、極めてるよ」
うん、ビクトールさんの弟さん100パーゲーマー出身だ。
廃ゲーマーレベルだ。
どれだけこのゲームの世界にいたのか分からないけど、このゲームの中で『称号』を得るほどのプレイヤーだったのなら確実にとんでもないPS持ちだ、うん。
「『称号』があるとどんな効果があるんですか?」
「えーと、なんか小難しいから良く分からないんだけど、魔法の威力が上がるし固有のスキル? っていうのがあるらしいよ。…………どれだか分かんないけど」
「…………」
自分のステータス……正確には弟さんが育てたアバターのステータスをぴこぴこ確認するビクトールさん。
ああ、なんか頭が痛くなってきた。
午前中の事もあるけど……なるほど、ビクトールさんは『ゲームに不慣れな近接戦闘タイプ』。
そんな人が『ゲーオタが極めた賢者のアバター』を使っているという、このミスマッチさ!
そりゃ戦い方もひどいわけだよ!
なんて事するの、この人!
「修行が、要りますね……」
「え? 俺の事言ってる?」
「他に誰がいるんですか」
「…………。ですよね……」
……とりあえずテイマーのスキルを確認する。
テイムしたモンスターが戦い、敵モンスターを倒すと
モンスターは個別でスキルツリーを持っていて、テイマーはモンスターのスキルツリーを成長させて、技を覚えさせたりステータスの底上げを行う。
それ以外に、テイマーがモンスターを補助するスキルをSPで覚える事が出来る。
キャロラインが言ってたのはこういう事か〜。
「……なるほど、ふむふむ……ほうほう……」
「自分で戦うより向いてそう?」
「はい。なんかすっごくラッキーです! ……あ、でも、コールドベリーがまだ十個集まってない!」
「ダンジョンに入り直せば採取ポイントは復活してるよ」
「なるほど!」
というわけで一度ダンジョンを出て、入り直す。
試しにテイムした子たちの名前を呼ぶと、私の影から二匹が現れてモンスターと戦ってくれる。
すごい! 素敵! 楽チン!
二匹のスキルツリーは私のものと変わらず、『技スキル』と『ステータスアップ効果』。
少し悩んだが、技は後回しにして二匹のステータスをアップさせた。
倒れられては困るもの、今は基礎能力を上げておいた方が良い。
「よし! 十個集まりました!」
「お婆さんに届けに行こう」
これでアイテムボックスもパワーアップ!
すごい! 私かなり頑張ったんじゃない⁉
と、いう事でダンジョンの外へ戻る。
焚き火で暖まるお婆さんに、クエスト報告を行う。
「うん、ありがとう。確かに受け取った。しかし、溶けちまってるね……もしかして、あんたのアイテムボックスは旧型かい?」
「え、溶け……」
コールドベリー、と書いてあるアイテムを手渡したつもりなんだけど……あ、でもお婆さんに手渡したのは確かに氷が溶けている。
え! コールドベリーって溶けてちゃいけないの⁉
「ご、ごめんなさい?」
「仕方ないね、アイテムボックスをあたしの魔法で強化してあげよう。ほぉれ!」
「っ!」
キラキラと光が私の体を包む。
え、ええと、これでアイテムボックスのアップデートは終わり?
「これであんたのアイテムボックスは食べ物を入れても腐らなくなった。また今度コールドベリー集めを手伝っとくれ」
「は、はい! ありがとうございます!」
「……ところで、あんたの影から妙な気配を感じるね? もしかして、あんたテイマーかい?」
「え?」
もしかしてあんことだいふくの事?
影と言われると他に思いつかないし……テイマーだと見破られた?
「えっと、はい。ダンジョンの中でテイマーになりました。あんこ、だいふく」
「みぃ!」
「おぉん」
名前を呼ぶと二匹が出てくる。
それを見たお婆さんは驚いた顔をした。
え? なに?
「……そうかい……」
「え? あ、あのう?」
「お嬢ちゃん、あんたはこの二匹に掛けられた呪いを解いてくれたんだね」
「……呪い?」
まさかあの大きな氷の塊?
いや、触ってないから氷と言い切れない……もしかしたらガラスだったかも……。
でも、あれはビクトールさんの下手な魔法で溶けてしまった。
正直私もただのオブジェとしか思ってなかったんだけど……。
「むかぁし、あたしの友達がテイマーをしていてね、この洞窟の中で落石事故に遭って死んだのさ」
「え!」
「……以来、その友達が連れていたモンスターは友達の呪い……『死にたくない』という呪いで、大きな氷の塊に封じ込められ、命を吸われ続けてきたんだ。あたしもなんとか二匹を助けてやりたくて、方々手を尽くしたが……そんな事をしてる間に、あたしも命をたらふく吸われて、今じゃほとんど魔法が使えなくなったよ。今のあたしじゃあ、どうする事も出来なくてねぇ……可哀想で、せめて側で……見送ってやろうとここにいたんだけど……そうか、そうか、あんたが助けてくれたのか……良かったねぇ」
「みぃ!」
「おおん!」
「……そう、だったんですか……」
そんなストーリーがあったのか。
あの氷、そして、このお婆さんには……。
「あの、それじゃあお婆さんから魔法を教わる事って無理なんですか?」
「うん? 魔法が使いたいのかい?」
「は、はい。まだ覚えてないので……」
「ああ、そのぐらいなら指南してやろう。でも、他の魔女よりあたしは弱い。最初の魔法、一つしか教えてやれないよ? それでも良いかい?」
「は、はい! 教えてください!」
え、魔法教われるの⁉
いける? いけちゃう⁉
そうドキドキしていたら、お婆さんに「手をお出し」と言われる。
言われた通りに出すと、お婆さんの手が重なって……なにか、流れ込んでくる……これは?
「…………言葉……?」
「魔法の呪文だ。スモールヒール、という癒しの魔法だよ。本当に初期の初期……一番弱い魔法だ。それでもあんたの旅路の役には立つだろう。持っておいき」
「あ! ありがとうございます!」
「なぁに、それはこっちのセリフさ。どうかこの子たちをよろしく頼むよ。あと、またコールドベリーを採ってきておくれ」
「はい!」
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