第7話 冒険者になりました!
「え、それじゃあ店舗だけ手に入れてもベッドとか、お風呂は……」
「ついておりませんわ」
ですよね。
……うわぁ、危ない。
いきなり店舗希望する人、いるの?
と、聞くとキャロラインは少し困った顔で「おりますわね」と答える。
い、いるんだー……。
「逆に望めば『自宅』を得る事も出来るよ」
「え! 店舗じゃなくてもいいって事ですか⁉」
「はい。……ですが、王都から一番離れた村に建てる事になりますの。どこの国の国境近くかはお選び頂けますが……」
「一人につき『自宅』は一軒だけだ。他の国に『自宅』を建てる場合、すでに持っている自宅の取り壊し費用も負担になる」
「店舗でしたら、いくつ作っても良いのですが……ええ、まあ、管理出来るのであれば……」
「…………シビア……」
ついに声に出してしまった。
いや、仕方ないでしょこれは。
「あ、島に関しては数が多いので割愛しますわね」
「あ、う、うん……」
「さて、ここまで聞いて、今後の方針は固まりそうか?」
「……うーん……」
なんだか悩む要素が増えた気がするのよね。
服、は興味深い事が多いのだけど……作る事は本当に頭になかった。
でも『魔法付与』。
服に魔法の効果がつく。
魔法が掛かった服……!
「…………」
「?」
キャロラインを見る。
そんな、そんな魔法のドレスをキャロラインが着たらすごく、すごく素敵なんだろうな……。
小さな頃、お姫様の出てくるアニメ映画で王子様とのダンス中、くるくる回ると色の変わるシーンがあるやつを見た。
なんのアニメ映画かもう思い出せないけれど、それは今も鮮明に残ってる。
シャンデリアの光の加減で色が変わって見えるのかしら?
生地の素材は?
もっと段差を入れれば可愛いのに!
ラストシーンなんだからもっと豪華なドレスを着せれば良かったのよ!
スカートのシーンはアップしてー!
等々、考えながら見ていた。
あの時のアニメのお姫様は金髪だった気がするけど……私の中のお姫様はこちらのNPCのお姉さんに固定してしまったから……。
「シアさん?」
「……うん、決めた。私、冒険者になるわ。冒険者になって素材を集めて、服作りを学んでくる! お店もいつかは出したいけど……基礎も分からずお店は出来ない! そんなのプロじゃない!」
「!」
確かにこの世界はお店を持つのが楽なんだろう。
でもそれと成功するのは別の話。
私はこの世界に来る絶望しきった自殺志願者たちとは、多分違う。
死ぬのは考えたけど、死んだら負けだと思ってる。
あいつの為に、自分の命まで投げ出すなんてそんなの絶対してやるものか。
母さんの思い通りに生きるのももうやめる!
婚約者なんていらない。
私は……私は私のやりたい事をやるの!
現実に戻っても一人で生きていけるように、この世界で得られる技術を全部取り込むのよ。
「私の夢はデザイナー! 自分のお店を持ちたいの! 私は……人が笑顔になれる魔法の服が作りたい!」
王子様と結ばれたお姫様が、笑顔でダンスしていた、あの時のような笑顔をもっとたくさんの人に——!
「……素晴らしいと思いますわ!」
「では冒険者に転職するといい。転職はステータス画面から可能だ。初期職の一覧『は』行の『ほ』だな」
「一覧があるの?」
え、それじゃあ昨日それを見ておけば……いや、見てても迷っていた気がする。
ステータス画面を開いて初期職一覧を表示。
……初期職。
「いっぱいあるけど……『貴族』もあるんだ? あれ? 『貴族』はなるの大変なんじゃ……」
「はい。この国の辺境貴族の末、という設定で開始されますが、位は最も低い『子爵』となります。貴族の扱いですので田舎村に庭つき一戸建てが進呈されますが『職種』は強制的に『貴族学生』か『貴族騎士見習い』を選択となり以後自由に変更が出来ません。エスカレーター式に『学者』または『外交官』、『騎士』にしかなれません。それ以外の職種からスタートした場合、『貴族』
になるのが大変なのですわ」
「ん、んんん……」
「ちなみにそれらの上位職になれば給料が出る。働いた分だけね。『学者』はスキルの効率の良い上げ方の研究。簡単に言えば攻略法の研究を行う者だ。実践情報を持つ情報屋とは永遠のライバルかな。『外交官』は他国にも行けるが王族貴族のパシリのようなもので自由は限られている。『騎士』はこの国の中で定期的にモンスター討伐を行うだけの仕事。これらの職種から転職する場合は、転職理由と贈与された『自宅』の返納、俺の許可が必要になる」
「ですが『貴族学生』になると冒険者で覚えるスキルはもちろん『魔法』『魔法付与』『魔法付加』その他、多くのスキルが覚えられます。『武器知識』『防具知識』『モンスター知識』『鉱物知識』『植物知識』等の知識も図書館で得られますわ」
「へ、へえ」
戦って冒険しなくてもスキルや知識がゲットし放題って事?
え、それはアリなんでは……。
「……ううん、やっぱり冒険者にする」
「よろしいのですか?」
「貴族って聞くとなんかこう、パーティーとかありそう」
「ありますわ」
「うっわ、あるんだ。……うん、そういうの嫌だから冒険者にする」
「分かりましたわ」
特に深く聞くこともせず、微笑んでくれるキャロライン。
……こんなお姉ちゃんが欲しかったな。
こんなお姉ちゃんがいたら、妹があいつでももう少し頑張れたかもしれない。
「そうですわ、最初にお伝えしておきますが初期職の転職はいつでもどこでも好きなだけ出来ます。しかし初期職以外はスキルツリーを解放していかないと発見出来ないものや、
「うん、分かった。普通のゲームみたいな感じで、色々試さないといけないんだね」
「ですわ。冒険者はまず冒険者登録をお城……つまりここで行います。そうする事で通行証が発行されますの。早速登録しますか?」
「キャリー、彼女まだ冒険者に転職してないよ」
「でしたわ!」
「あはは。君は本当にドジなところが可愛いな〜」
「あ、あううう〜! ハイル様ったらからかわないでくださいまし〜!」
仲良しな夫婦だな。
うちの親とは大違い。
さて、なんだか優しい気持ちにもなれたし転職、してみましょうか!
「冒険者に転職するね」
ポチッとな。
『冒険者』を押してみる。
ふわ、としたから風のような光が舞い上がり、服装が軽装の登山服みたいになった。
茶色い皮の胸当てと、手袋。
布のズボンにブーツ。
腰にはポシェット。
うわぁ、見るからに初期装備。
「えっと、ステータスは……」
【シア】
HP:120/120
MP:50/50
攻撃力:5
耐久:3
俊敏:4
器用:1
運:2
職業:冒険者
所持金:0
「よ、弱すぎ……」
「最初は皆さん弱いですわよ」
「う、うん。えーと、スキルは……」
スキルツリー解放式のゲームだから、確認はしておかなきゃ。
自分の情報の記載の上にある『スキルツリー』のところをタップする。
なし。
「なし⁉」
普通転職したらなにか覚えてるものじゃないの⁉
なしになってるよ、なしに!
なしって!
なしってゼロって事じゃない!
ええええええええぇ⁉
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