第6話 世界地図



「他の国も色々あるの?」

「はい。あ、ではこの世界にある国々の事もご説明致しますか?」

「う、うん」


 ヴォン、とテーブルの上に半透明な濃紺のモニターのようなものが現れる。

 ステータス画面と同じ感じかな。

 そこには複数の大陸、島、小さな文字がたくさん……。

 島は数え切れないけど、大陸は七つもある。

 コンパスの形をした印は方角だろう。

 ぽちぽち黄色く光っているのが現在地?


「光っている場所が現在地ですわ。ここ、『エレメアン王国』は中央大陸の中心の国です」


 中央大陸の中心の一番大きな国だったんだ。

 まあ、スタート地点としては無難かな?

 スタートの国がここ、『エレメアン王国』。

 その国の王様があのイケメンで、奥さんがキャロライン……。

 改めてすごいところにいるわね、私。


「中央大陸、東に『レニオドラン公国』、こちらは貴族が治める国です。我が国とはライバル関係の設定ですわ!」


 設定って言っちゃった。

 いや、そうなんだろうけど……。

 ここと同じ、人間の国という事かな。


「中央大陸、西に『ダークネス帝国』、魔族の治める国で、複数の小国を従属させております。王様は魔王サティア様ですわ」

「ま、魔王様!」

「はい。とってもお顔立ちの整った人気のお方なのですよ。わたくしはハイル様が一番素敵だと思うのですが……」

「当然だな! 俺以上にキャリーを愛せる男などこの世にはいない!」

「まあ、ハイル様ったら……」

「…………」


 魔王様がイチャイチャのダシにされてる……。

 それにしても魔族の国かぁ、面白そう。

 すごくファンタジーね。


「中央大陸、南に『ファンタジオール共和国』、獣人や亜人の国ですわ。色々な動物の姿をした人々が生活しています。……『レニオドラン公国』は『ファンタジオール共和国』が大嫌いなので、いつ戦争を仕掛けるかハラハラしておりますわ」

「え、そうなの?」

「かの国は貴族の国で、人間が最も賢く優良な種と言い張っているのだ。まあ、そういう設定なんだが……」


 王様まで設定って言い切っちゃったわ。

 い、いいのかそれ。


「我が国が中央にあり、それを押し留めている形、だな。『ファンタジオール』とは友好国だが、『レニオルドラン』から来た人間に亜人や獣人は冷たい態度を取る。我が国の通行証なら問題はない」

「ややこしいのですが、この世界で例えば他のプレイヤーやNPCを襲ったりしますと『カルマ』がつきますの。増えると『国家指名手配』になって、その国からは追い出されて入国出来なくなるのですわ。それで別な国に籍を移して動くと、まあこのように面倒ごとに巻き込まれる可能性が増える……という事ですわね」

「な、なるほど……下手に悪い事はするな、という事ね」

「ちなみに全ての国で『国家指名手配』になった猛者が一人いるよ」


 ふふふふふ、と夫婦が微笑む。

 ……もう一度地図を見上げた。

 ええ、この地図上の大陸にある全ての国って意味?


「そ、それは猛者というより馬鹿では……」

「あははは! 上手い!」

 笑って褒められてしまったわ。

「説明を再開しますわね。中央大陸、北に『桜葉おうはの国』がございます。古き良き日本をモデルにした国ですわ。他の国との交流は最低限。行くにはいくつかの特別なクエストをクリアして、ハイル様の許可を得る必要がございます」

「紹介状を書かなきゃいけないんだ。難しいクエストではないが、クエストそのものの出現が少し難易度高めかな。他の国からも似たような条件が必要になるから、行ってみたい時は情報屋などを使って条件を調べてみてくれ」

「……やっぱり着物とか、着ているんですか?」

「はい。それと『あやかし』さんがおられます。モンスターとも魔族とも違う方々ですわ」

「お、おお……」


 国によってファンタジーの別要素が盛り込まれているのね。

 はあ、これは冒険者になって歩き回るのも面白そう。

 な、悩むな〜。


「さて、中央大陸はこれで終わりですは。次に中央大陸を囲む大陸をご説明します。中央大陸南西に位置する大陸は『機械亡霊ヴェルガーイージニス』という国があります。名の通り機械と亡霊の国ですわ。先ほどご説明した『あやかし』ともまた違う方々です。機械融合人ヴェルガーと呼ばれる機械と生身の体が融合した人々と、機械人ヴィガンと呼ばれるアンドロイドのような人々、亡霊たちが共生している不思議な国です。こちらも行くのにはキャンペーンクエストのクリアが条件となります」

「……聞いただけでも、なんだか不思議な雰囲気の国ね」

「はい、機械融合人ヴェルガーの方々の民族衣装? も、独特なのでオススメですわ」

「っ!」


 そ、それは興味深い!

 ……やっぱり冒険者になろうかな。

 ふ、服の勉強になりそうだし!


「中央大陸の南に位置するは『灼熱砂漠同盟国』。大陸が全て砂漠で、とても過酷な場所ですわ。オアシスに寄り添う形で複数の町、それを治める王を名乗る者たちがおり、同盟を組んで一つの国となっています」

「古代エジプト風な雰囲気、かな?」

「ですわね。キンキラキンな方々がたくさんいます。珍しいモンスターもたくさんいますわ」


 い、行ってみたいかも。でも暑いのは苦手だな。

 ……キンキラキン……いや、気になる!


「そして中央大陸北西部の大陸には『炎歌戦国えんかせんこく』という年中無休で戦争に明け暮れている国がありますわ。イメージとしては中華っぽいでしょうか。モンスターも多いので、スキルツリー解放に打ってつけの場所です。食べ物も美味しいですし、服も可愛いですわよ」

「でしょうね!」


 絶対可愛いと思うわ!

 それに、戦争してるのに可愛い服がある……。

 実用性と可愛さを兼ね備えた服がたくさんあるに違いない!


「もしかしてこの国に行くのも……」

「ああ、キャンペーンクエストをクリアしなければいけないよ」

「うぅ……」

「うふふ。……次は中央大陸から北に位置する大陸ですわ。『スモーキルグ』。雪と霧の国で、自治区の集合体です。小さな集落が無数に点在していて、自治区長の方々がその大陸の方針を定めて統治されています。冬服と言ったらこちらですわね」

「こっちも可愛い服がたくさんありそう……」

「はい、もこもこぬくぬくですわ」


 くぁ〜〜っ! 気になる〜!

 ドレスには到底参考に出来なさそうと思ったりもしたけど、ボレロの参考になると思うのよね。

 ファーのついたドレスも可愛いと思うし。


「そして北東部に位置する大陸は『大森林』。エルフが住まう大陸です。数多くの魔法が覚えられますが、行くのにはやはりキャンペーンクエストをクリアしなければいけませんの。しかも、他のキャンペーンクエストより長いし難易度も高めでのよ」

「え、ええ……」

「ですがエルフといえば器用で美しい装飾品が数多い。その上『魔法付与』のスキルで、装飾品に特別な効果がついているのです!」

「ま、魔法付与?」

「魔法で自身に特殊効果をつける事を『魔法付加』といい、スキルの一つとして覚える事が出来るんだが……」

「『魔法付与』は物に魔法効果を付与するスキルですの。鍛冶職人やアクセサリー師は持っているのといないのでは、作った品物の値段が桁違いですわね」

「もちろん装備品……つまり服にも『魔法付与』は使用出来る。君が『縫製』のスキルと『魔法付与』のスキルを覚えて、それを使って作ったなら、ドレスじゃなくても高額で売る事が出来るだろう。『魔法付与』のスキルは取得が大変だから」

「……ま、魔法付与の……スキル……」


 キャロラインがつけ加えて「例えば『防御力アップ』や『魔法防御力アップ』とかですわね」と具体例を教えてくれる。

 確かに……そんな事が出来たら付加価値で値段も違うんだろうな。

『魔法付与』か……どうやって覚えられるんだろう?

 聞いてみると二人ともにっこり微笑んで『情報屋に聞いてみて』と言う。

 簡単に教えてくれないらしい。


「そして最後ですわ。南東部に位置する大陸は『グランドスラム』。大変困難なクエストの報酬として行く事の出来る、超高難易度ダンジョンの大陸ですわ。上級者向けの大陸ですわね。モンスターは全てダンジョンボスクラス。そのダンジョンのボスは、レイドイベントで倒すレベルのモンスターばかりです。上級素材がっぽがっぽですが、当然非常に危険です。死ぬ事はありませんが、負けてHpがゼロになればこの国の、この城に戻ってくる事になりますわ。そして、また行くのにクエストをやり直さなければなりません」

「う、うわぁ……」

「自宅を建てていれば、そこで復活するよ。ただし、店舗はダメだ。『自宅』でなければならない」

「え、自宅と店舗って別物扱い、って事ですか?」

「ですわ。昨日店舗の初期費用は不要。土地代と建物代は要らないと申し上げましたが、本当に『店舗』のみの援助となりますの。店舗内のテーブルや椅子、商品棚などはご自身で用意して頂く事になります。そして、その店舗をご自宅としても使いたいという場合は新たに店舗二階に『自宅』を増設しなければいけません。当たり前ですがこちらはプレイヤーさん持ちになりますわ」


 シ、シビア……!

 い、いや、現実と比べれば確かに優しくはあるけれど……!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る